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第49話 番外編 甘い春風
結婚から四年の春、二人の愛の結晶春久は三歳、可愛いさを日々増している。
「パパーっ、ママ、ポンポンいたい、いたいって」
帰宅後すぐに母屋へ顔を出した彰久に、春久が駆け寄って訴える。その幼い顔には不安が浮かんでいる。
「ああ、大丈夫だ、心配いらないよ。パパが今から治してあげに行くから」
「パパがなおちてあげるの?」
「そうだよ、パパはお医者さんだからね。パパに任せておけば心配いらない」
春久の後ろから付いてきた雪哉が言う。
「パパ、おいちゃちゃん」
「そうだよ。だからはる君は、ばーばたちとここで待っていようね」
「はる、いい子にしてるんだぞ」
彰久が愛しい我が子の頭を撫でながら言うと、春久は大きく頷いた。母への心配の気持ちは、父への信頼が打ち消してくれる。
「母さん、すみませんがよろしくお願いします」
「ああ、ここは心配いらない。早く行ってやりなさい。後でご飯も差し入れてやるからな」
「ありがとう、助かります」
彰久は、母へ感謝の気持ちで頭を下げた後、もう一度春久の頭を撫でてから、離れへ急いだ。離れでは最愛の人が、自分を待っている。
母屋を出て数歩進むと、離れからの甘い香りが鼻腔を擽る。三月に一度、発情期の香り。番である己しか感じることができない香り。
逸る気持ちで離れのドアを開けると、その香りに全身を包まれる。包まれたまま寝室へ急ぎ、ドアを開ける。ベッドの上がこんもりしている。
彰久は嬉しさに、微笑みながら近づき、こんもりした塊を抱きしめると、愛しい人が塊から顔を出した。熱を帯びてほんのり色づい頬、瞳は潤んでいる。
「あっ、あき君」
「あお君、巣作りしてたの?」
彰久の問いに、蒼は頷く。彰久の胸は愛おしさではち切れそうになる。可愛い、可愛すぎる。
十二歳年上の人。いつも清楚で凛とした佇まい。冷たさは感じないが、犯しがたい気品がある。
その人が、発情期には、子共がままごとに勤しむように、一心に巣作りするのだ。オメガの巣作りだから、当然番である彰久の物ばかりをかき集めてだ。
「もう本物が来たのだから、出てきていいだろ? おいで、抱っこしてあげるよ」
頷きながらも名残り惜し気な蒼を、抱き寄せる。発情した体が、巣の中で更に温められたのだろう、ほんわかと温かい。
彰久は、蒼の温もりに心が満ちていくのを感じる。こうしているだけでも十分幸せだが、やはり体を一つに繋がりたい。それは、男としてアルファとしての本能。
それは蒼も同じだろう、二人は番なのだから。蒼は、彰久を見上げてくる。口付けが欲しい時の蒼の仕種。勿論応じる。蒼の求め以上に……。
最初は啄むように、徐々に深く、貪るように……。蒼も感じているのだろう、溢れる唾液を啜ってやる。
唇を離すと、蒼は濡れた唇のまま、彰久を見上げる。さっきよりも、妖艶さが増している。彰久は己の体の中心が、かっと熱くなるのを感じる。
「あっ、あき君……」
何? という感じで彰久は蒼を見る。勿論、蒼の求めていることは分かっている。しかし、少し意地悪すると、蒼の色気が増すことも知っている。己の熱を抑えながら、焦らしてやるのだ。
蒼が、イヤイヤをするようにしがみついてくる。美しく火照った顔を、彰久の胸に埋める。
「あっ、あき君……ほっ、ほしい……」
彰久は蒼の顔を両の掌で上げさせると、潤んだ瞳で己を見つめてくる。こんな瞳で見つめられたら、彰久も限界だ。
再び唇を奪いながら、着ているものを脱がしていく。弄るように胸に手をやると、ビクッと反応する。乳首に触れたからだ。
既に尖りを帯びた乳首。春久が産まれて二年程は、春久の物でもあったが、今はまた彰久だけのもの。春久も時折は触れているみたいだが、それは許している。
口に含むと、「あんっ、あっー」蒼の甘い喘ぎ声。
蒼の動きを抑えるようにして、舌と指で、蒼の両のそれを愛撫する。動きを抑えられることで、蒼の感応は深まる。陶酔へと導かれていくのだ。
抗うように動く蒼を抑えて、蒼を極みに向かわせたいと、更に追い込んでいく。
「ああんっ……あっ、いっ、いくーっ」
甘く、色を帯びた喘ぎ声と共に、蒼は、彰久の腕の中で果てた。色づいた体は、小刻みに震えている。きれいだ。自分だけが知るこの美しい体。愛おしい……強く抱きしめると、蒼の目が開く。
彰久が愛おし気に見つめると、蒼も微笑み返す。そして、抱きついてくる。一番欲しいものがまだだから。
「あお君、いま凄く敏感だから、乳首だけでいっちゃたけど、ここが一番欲しいんだよね」
そう言いながら、蒼の秘所を弄ると、蒼の抱きつく力が強まる。
蒼が欲しがるのは当然だ。そこはとろりと蕩けるようになっている。己のアルファを待ちわびているのだ。
彰久が指を入れると、ビクッと反応する。
「あんっ、あっ、あき……入れてっ……ほっ、欲しい」
一度逝った体は、燃えるように熱い。唯一のアルファ、彰久の体を狂おしいほど求めている。
彰久も、ただ一人のオメガ、蒼の体を求て、昂っている。いきり立ったようなそれを、蒼の秘所にあてると、吸い込まれるように入っていく。
「ああーっ、あっあきーっ……いいっ、いいーっ」
蒼は、歓喜の喘ぎをもらす。
「ああ、あおの中、最高だよ。愛しているよ」
蒼は、頷きながら彰久の腕を強く掴む。動いて欲しいのだ。奥深く、強く、強く感じたいのだ。
蒼の求めは分かる。自分も激しく動きたい。彰久は抽挿を始める。蒼の感じるツボは知っている。そこを刺激するように動く。本能の赴くままに動く。
「ああーっ、いいーっ……おっおくーっ、あんっああーっ」
うわ言のような喘ぎを上げながら、顔を仰け反らす蒼。
彰久はその蒼の汗ばんだ体を抱きしめる。
「あお、いくよ、一緒だよ」
蒼は頷く。陶酔に上り詰めたその表情は、女神のように美しい。
彰久は、愛おしいひとの中に精を迸らせていく。アルファとして、一番の喜びを感じる時。
蒼の体の力が抜ける。愛する人の精を受け、陶酔の極みで気を失ったのだ。
彰久は、その愛おしい人を抱きしめ、額に口付ける。
愛している。何度言っても言い足りないくらい、愛している。
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