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第54話 番外編 甘い春風
「幸せだよね……もう凄く当てられるけど、微笑ましいのよね。見てるこちらまで幸せになるわよ」
結惟が三人を見ながら、しみじみと言う。雪哉も深く頷いた。本当に幸せそうだ。否、幸せなんだ。
そして、結惟の言う通り、こちらまで幸せな気持ちになる。おすそ分けどころではない、ドカンと与えてくれる。
もう小言なんて、どうでも良くなる。蒼のおっぱいは彰久のものでもいいような気になる。
彰久は、蒼と春久を全力で守っている。もし仮にでも、何かあれば、自分の命と引き換えにでも、守り通すだろう。それは確信できる。
雪哉には、そんな息子が頼もしく、そして誇りに思う。
「あれらには当てられるが、我々三人も仲良くするぞ」
高久が、雪哉と結惟を抱き込むようにして言う。
「そうだよな、結惟もまだ嫁には行かないだろう」
「そうね、もう少し気楽な独身生活を楽しみたいな。私が嫁に行ったら、パパが老け込みそうだし」
「というか、その前にごねるんじゃないかな。式で号泣したり……」
「あのな、お前たちは、全く好き勝手言いおってが」
と、反論はしたが、実は全く自信が無かった。孫が可愛いのも事実だが、娘の可愛さはまた別のもの。息子たちとは、違う思いがある。できれば、嫁には行かず、このままとは思うが、さすがにそれはない。
年頃になった娘、いつかはその日が来るだろうが、今少し先であって欲しいというのが本音。父親とはそういうものだろう。
「もう一人息子がいるけどな」
「なお君、まだ帰国しないの? もう九年だよね」
「ああ、三月にと思っていたがな、しかし、秋には帰国させたいな」
「脳外科はうちの弱点だから、尚久の帰国は待ち遠しい。秋には必ず帰国して欲しい」
「そうだな、心外は彰久が頑張ってくれているからな、尚久が帰国してくれると心強い」
「なお君期待されているね、頼もしくなってるかなあ……」
彰久の後を追うように、アメリカへ留学した尚久。彰久と同じように最短で医師資格は取ったが、更に経験を積むために帰国を伸ばしているのだ。
現在の北畠総合病院の脳外科は、優秀な外科医を必要としていた。尚久が、あえて父や兄と違い脳外科を選んだのは、病院にとって幸運だった。彰久と尚久。心臓外科と脳外科、二枚看板になる。これは、病院には強力な武器になる。
「なお君、アメリカでいい人見つけたかなあ、九年だもんね」
「どうだろうな、向こうでの生活ぶりは分からんからな」
「青い瞳の人を連れてきたりして」
「どんな人でも、尚久が選んだ人なら間違いないだろう。皆で歓迎しないとな」
親子三人で話していると、春久がむくっと動いた。目覚めたのだろうか。
むくっと顔を上げた春久は、母の蒼と目が合うと、またその胸に顔を埋める。目は覚めたが、まだこのまま甘えていたいのだ。
それが分かる蒼は、春久の背を優しくぽんぽんとしてやる。彰久は、横から春久の頭を撫でる。
しばらくそうしていると、再び春久がむくっと顔を上げる。
「はる君、起きたのなら散歩にいくか?」
蒼が言うと、春久の顔がぱーっと輝く。
「うん、いく」と言って、母の胸から離れてよいしょっと、起き上がる。
「少し、公園まで散歩してきます」
高久と雪哉と結惟の三人は、散歩に出かける親子を見送る。両の手をそれぞれ父と母に握られた春久は、弾むように歩いて行く。嬉しくてたまらないというように。
微笑ましい姿に、三人は微笑を浮かべて頷き合った。
「おはないっぱいさいてるね」
「そうだね、とてもきれいに咲いているね」
公園に着くと、色とりどりの花が咲いている。春久は、花を見て、そして母を見て満面の笑顔になる。
「おはな、きれいだけど、ママのほうがきれいだよ」
「全くはるは、パパのお株を奪うのか。このおませなおちびさんは」
彰久が苦笑交じりに言うと、春久は言われた意味が分かっているのか、蒼に抱きつく。
「ママきれいだから、だいしゅきだもん」
「ママもはる君のこと大好きだよ」
愛おしい、心から愛おしい、その思いのまま蒼は春久の頬に口付ける。
「いいかはる、ママはきれいで優しいだろ。だからママを守らないといけないよ。今はパパが守っているけど、はるも大きくなったらママを守るんだぞ」
「うん! ママだいしゅきだがら、はっくんママまもるよ!」
ママを守ると、当然のように言う春久、幼いながらにアルファの自覚があるのだろうか……。
「パパもママだいしゅき?」
「ああ、大好きだ! パパはママとはるがだーい好きだよ!」
「はっくんもママとパパがだいーしゅき!」
更に抱きついてくる春久、その二人を抱き込むようにする彰久。蒼は二人の温もりに心からの幸せを感じる。愛おしい、最愛の二人。
「ママも、はる君とパパがだーい好きだよ!」
幸せな親子三人を、心地良い春風が包んだ。
番外編完結しました! お読みいただきありがとうございます。
来月から外伝として、尚久のお話を連載します。蒼たち親子三人も相変わらずの甘々ぶりで登場します。
読みにきていただけると嬉しいです! よろしくお願いいたします。
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