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出会い6

 これは一時の夢なんだ。シンデレラが魔法で王子様とダンスを踊れたのと同じ。神様が、ほんの一時幸せな夢を見させてくれているんだ。だから、これで満足しなきゃいけない。例え一時であれ、いい夢を見れているのだから。 「今、幸せ?」  樹はたまに僕にそうやって訊いてくる。だから答えるんだ 「幸せだよ」  って。  だって、幸せなのは本当だから。そして、僕がそう言うと、樹くんも幸せそうに笑うんだ。  そして、 「もっと幸せにするから。俺が優斗を幸せにするから。今までの分、埋められるように」 「もう十分だよ。十分幸せにして貰ってる」 「だめ。今まで悲しかった分、全部幸せで塗り替えるんだ」  そう言って抱きしめてくれる樹くんの腕は温かい。ずっとその腕の中にいたいくらいに温かい。  僕がオメガだったら、この腕の中にずっといられたのに。でも、そんなことできないから。だから、樹くんの寝顔にたまに呟くんだ。 「ベータでごめん」  って。 「いつか、その日がきたら身を引くからね。だから樹くんは自由でいて。僕に縛られないで」  そう。いつか、子供が欲しいと思ったとき、僕の存在が足枷にならないように、いつでも身を引けるようにしておくんだ。  僕は大丈夫だから。少し寂しい思いをするかもしれないけれど、樹くんがくれた優しい時間を思い出せば生きていける。いや、生きていかなきゃいけないんだ。  シンデレラみたいに王子様は迎えに来てくれないけれど。でも、王子様と踊った幸せな時間は味わえたんだ。それだけだって僕のような出来損ないのベータにはもったいないくらいの幸せだから。  もし、僕がオメガになっていたら、シンデレラのように王子様は来てくれるんだよね? 樹くんがいてくれるんだよね。なのに僕はオメガじゃない。  母に色んな病院に連れて行かれていたとき、オメガになれていれば良かったのに。そうしたら、ずっと樹くんと一緒にいられたのに。  ホルモン剤を打ちに病院に連れていかれてたのは、幼稚園くらいから高校二年生くらいまでだった。  そのときは、なんでオメガにならなければいけないんだ、って思ってた。  加賀美の家ではオメガが一番優秀だ。他家へ多く嫁いでいる。次に優秀なのがアルファ。他家のオメガを娶り、優秀な種を残す。最後のベータはなんの役にも立たない落ちこぼれだ。生まれながらに出来損ないのレッテルを貼られるのだ。それでも僕はヒートがないだけいいと思っていた。  しかし、加賀美の家長である父はとにかくオメガを産め、と母に言っていたという。だからオメガの子を産みたかっただろう。なのに生まれてきたのはベータの僕だった。  だから母は必死だったんだ。そして病院に連れて行かれる僕はそこまでオメガに執着していなかった。もし、今なら必死にオメガになろうとしたのに。でも、僕を病院へ連れて行った母はもういない。だからもう性別から開放されていいのにまた性別のことを考えているなんて。

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