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オメガになりたい3
「わかった。試してみよう。でも、ひとつだけ条件がある」
「条件?」
条件ってなんだろう。樹くんがそんなことを言うのは珍しいので、身構えてしまう。
「そう。条件。って言っても難しいことじゃないよ。オメガにならなくても俺のそばにいて。俺は優斗のこと手放せない」
「樹くん……」
ここで頷かなきゃダメだとわかっている。でも、一瞬躊躇してしまった。
「優斗のことだから、俺のためにっていなくなろうとするだろ? でも、それって全然俺のためにならないから。優斗がいなくなったら、俺は探すし、絶対に見つけ出す」
樹くんにこんなふうに強く言われたのは初めてだった。僕がいなくなったら、探してくれるの?
「その条件つきでなら、試してみよう。優斗はオメガ家系だから、確かに可能性としたら高いね。でも絶対なれるわけじゃないからね」
「ホルモン剤でオメガにならなかったから、わかってるよ」
「じゃあ誘発剤用意しておくよ」
条件付きにはなってしまったけれど、樹くんに納得して貰えた。きちんと条件をのむかと言われたら、正直なんとも言えない。だって、子供も産めない出来損ないのベータが樹くんのそばにいていいわけがないじゃないか。
だけど、試してみるためには、条件をのんだ振りをするしかない。そんなことしたくないけれど、樹くんのためだから。きっと、そのときになったら樹くんもわかってくれるだろう。なんだか自分がずるい人間だと思うけれど、これは言えない。
樹くんから、誘発剤を用意できたと言われたのは、それから一週間たってからだった。ちょうど週末に重なったので、この週末に試したいと思った。それは樹くんも同じようだった。
お昼ご飯をを外で食べ、樹くんの家に帰る。そして、錠剤を手渡された。誘発剤だ。震える手でそれを受け取り、飲んだ。
薬を飲んですぐ効くわけではないので、その間に樹くんと話をする。
「薬は五錠あるから五回は試せる」
「うん」
「ベータであること、そんなに悩んでたんだ?」
「うん」
「何回も言ってるけど、俺は優斗がベータでも手放す気はないから。それだけはわかってて」
樹くんはそう言って僕をギュッと抱きしめてくれた。
樹くんの腕の中はとても温かい。ギュッとされると、このままずっと抱きしめられていたいと思ってしまう。ずっとこのまま。なんて僕なんかが望んじゃいけないけれど。
「抱くよ」
そう言われて、僕はこくんと頷いた。
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