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第10話-1 塩彼氏返上
「ま、まあまあまあ! そういうことでしたのね!」
義母のマイラが感嘆の声を上げた。あからさまな態度にレイノルドが片眉をあげる。サミュエルが男性と婚姻するなら弟の家督は揺るがないものとなるだろう。
「兼ねてから相談させていただいたように、卒業後は俺は辺境伯として領土を護っていく所存です」
「ったく。サミュエルらしい。婚姻を許してくれではなく婚姻しますのでと来たか。しかも降格して辺境伯を名乗ると言うのだな?」
「え? でもサムは騎士団に所属してるって言ってたよね?」
このまま騎士団にサミュエルが残ると思っていた僕は驚いた。
「ああ。辺境地に騎士団の支部を作る予定だ」
「はああ? なんだと!」
大声を荒げたのは父親であるレイノルドだ。
「お前、なんでそんな大事なことを儂に言わない!」
「王都からの極秘案件でしたので」
「ぐぬぬ。儂が反対したらどうするつもりだ」
「なさらないでしょ? 父上にはメリットが多すぎるはず」
「確かに。隣国との狭間にうちが保有している広大な辺境地に騎士団支部を設立させる場を提供すれば王都に恩を売れるし我が家の争いも鎮火しますわねえ。ほほほ」
マイラは満面の笑みである。そしてサミュエルにひざまづいた。
「今までごめんなさいね。貴方の事も本当は息子だとは思ってはいるのよ。少なくとも私は貴方をこの手で育てていこうと決心していたのだもの。でもカーネルが産まれて私は疑心暗鬼になってしまった。貴方が忠誠を誓ってくれたのに疑い続けてごめんなさい」
彼女はうなだれる様にサミュエルに頭を下げた。
「はあ、わかった。サミュエル、お前ほど策士な奴はおらぬわ。マイラを改心させ。この公爵家が王都に恩が売れるか。なるほど悪くはない取引だ。お前の望む様に儂が他者からアルベルトを奪えるように尽力してやろう」
「父上。感謝いたします」
僕はしばらく茫然としていた。すべては僕のあずかり知らぬところで話が動いていたからだ。
「アル? どうした?」
「どうしたじゃない! サムは何でも一人で決めてしまって。僕の意見も聞いて欲しかった!」
「っ! すまない。こういうところだな。俺の悪いところは」
「ヒドイよ! 僕にも相談してよ」
もちろん、嫌じゃない。すっごく嬉しいよ。でもさ、なんで僕に説明してくれないのさ。自分勝手に突っ走って。僕だけ置いてけぼりだなんて。
「取られると思ったのだ」
「取られる?」
「アルが子爵家の三男だとわかっていた。お前が悩んでいるようだったので、気になってツイリー家に探りを入れた」
サミュエルが単独行動をとっていたのは騎士団の鍛錬だけでなく僕の家の内情を調べるためでもあったらしい。卒業後に婚約話が出てたのは事実だったようで焦ったサミュエルは卒業前に僕との婚姻を決めたかったのだそうだ。
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