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第6話

 フウルが行く先々で雨が降る。  フウルが持っている『ギフト』が雨雲を呼び寄せるからだ。  その雨には塩が混じっていて、農作物がことごとく枯れたので、フウルはみんなに嫌われていた。国民に石を投げられたこともあるほどだ。  そしてこのラドリア国でも、とうとう雨を降らせてしまった。 「ああ、どうしよう!」  焦っても雨を止める力は持っていない。フウルが持っている『ギフト』は、雨を降らせてしまうだけの能力なのだ。  両手を握ったり閉じたりしながら、「どうしよう、どうしよう⋯⋯」と繰り返した。  馬車は雨の中をゆっくりと城へ向かって進んでいく。  城には夫となるリオ・ナバ国王が待っていることだろう。残虐で醜くて冷酷という噂の国王だ。  その残忍な王が、土と石だらけのこの国を豊かな緑の国にできるギフトを持ったオメガの花嫁を、首を長くして待っているのだ。  ——このままでは、ラドリア国はますます荒れ果ててしまう。僕の『塩の雨』のせいで草すら生えない場所になってしまう。  義母のエリザベート王妃は、フウルに、「他国民は『ギフト』のことをよくわかっていない。おまえさえ黙っていれば、おまえのギフトが役立たずの能力だということは誰にもわからない。いいですか、フウル。王子として、我が国の繁栄のために嘘を突き通すのですよ!」と念を押した。  もしもフウルが「自分は偽者だ」と真実を言えば、ラドリア国王はものすごく怒るだろう。両国の間に戦争が起こるかもしれない。  ——戦争なんて絶対にダメだ。  自分のせいで、たくさんの人が死んでしまうなんて、そんなことは考えるだけでも耐えられなかった。 「だけどどうしたらいいんだろう?」  嘘をつき続けたら塩の雨のせいで損害を与えるし、ほんとうのことを言ったらナリスリア国とラドリア国との関係が壊れてしまうだろう——。 「やっぱり偽の花嫁として嫁ぐしかないのか⋯⋯。だめだ、だめだ! そんなことをしたら塩の雨が降り続ける」  必死で考えても答えは出ない。  雨は、しだいに激しくなっていく⋯⋯。   けれどもなぜだろうか? 雨の中を歩いているのに、馬車の外の従者たちは上機嫌のようだった。明るい笑い声が聞こえるし、歌声まで聞こえてくる。 「きっと僕を『太陽の王子』だと信じているからみんな明るいんだ。このままでは絶対にだめだ、やっぱりほんとうのことを言わなくては——」  だけど言えば、残虐だと噂されるリオ・ナバ国王は怒り狂うかもしれない。 「そうだ! 僕の命と引き換えに許してもらおう!」  自分の命にそんな価値はないことはわかっていた。だけどそれ以外の方法を思いつかなかった。 「戦争だけは止めてください、とお願いしよう——」  そうすれば、もしかしたら戦争にならずにすむかもしれない。  ——僕の命で償おう。僕を、処刑してもらおう。  そう決心したときに、馬車が静かに止まった。  すぐにミゲルの明るい声が聞こえて馬車の扉が開く。 「さあ、つきました、王子さま」 「お、⋯⋯大きな、⋯⋯お城ですね⋯⋯」  空に届くかと思われるほど巨大な黒い城だった。  ラドリア国は軍力に優れていて、他国に傭兵を輸出しているほどらしい。  黒い城はそんな軍事国家らしく、要塞のような頑丈な石造りだった。あちこちに銃口のための窓が作ってある。  ナリスリア国の優雅な白い城とは正反対の雰囲気だ。 「大広間で陛下がお待ちです」  笑顔のミゲルが大きなアンブレラ(傘)を差し出してくれた。雨に濡れないようにという配慮だ。  こういうふうに気をつかってもらったことは初めてなので、ますます緊張した。 「ありがとう——。だけど君たちも濡れないようにアンブレラに入ってください」  体を小さくしてミゲルもアンブレラの中に入れると、ミゲルは小鹿のような可愛い目を見開いて驚いた。 「王子さまは、とてもお優しいのですね」  城の廊下にも金色の絨毯がひかれていた。歓迎のムードはいたるところにあって、廊下の壁には花々が飾られ、どこからか華やかなファンファーレまで聞こえてくる。  両開きの巨大な黒い扉が見えてきた。あの扉の向こうが国王が待っている大広間だ——。  大広間の手前には暖かい笑みを浮かべた使用人たちがずらりと並んでいた。 「ようこそ、太陽の王子さま!」  丁寧に膝を折ってフウルに礼をする。  フウルは、こんなにたくさんの人々に笑顔を向けられたことは今までに一度もない。  ——なんて暖かい気持ちになるんだろう。  心の中に人々の優しい気持ちが流れ込んできて、思わず泣きそうになってしまった。胸の奥がジーンとしてくる。  ——だけどこれは僕のための笑顔じゃないんだ。これは『お日様王子』のための笑顔なんだ⋯⋯。  歓迎されればされるほど、自分が偽者だということを強く感じた。  ——騙してしまってごめんなさい!  心の中で謝りながら、うつむいて絨毯の上を進んでいく。両足が震えた。なんども転びそうになった。

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