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第13話
馬車が大きく揺れ始めた。窓の外を見ると風景が変わっている。どこまでも果てしなく続く砂漠だ——。
太陽の光を受けて、サラサラの砂が金色に輝いている。
砂丘だ——。
馬車を下りると、リオ・ナバ王は従者たちを馬車のそばに残した。
「少しふたりで歩こう」
「はい⋯⋯」
金色に光る砂の上を歩いていく。砂はほんとうにびっくりするほどサラサラで、靴やズボンについてもすぐに風に吹かれて飛んでいった。
「数千年前はこの地にも木々が生えていたらしい。だが、長い間の乾いた気候で、すべてが砂になった——。我が国の大半が砂漠なんだ」
「そうなのですね⋯⋯」
砂漠はとても美しい。だけど木々は一本もなかった。ここでは植物はもちろん動物すら生きていくのは難しいだろう。
「さっきカカオ農園を見ただろう?」
「はい」
「あの場所も元は砂漠だった。だが今は緑の農園だ」
「ほんとうにすごいことです⋯⋯」
きっとものすごく大変だったんだろう——、そう思ったとき、ポツポツと雨粒が落ちてきた。
「雨——?」
思わず悲鳴のような声をあげてしまった。晴れているから安心していたらやっぱり雨になってしまったのだ⋯⋯。
空がどんどん暗くなっていく。雨雲が集まってきて、雨の激しさも増していく。
——大変だ! 陛下の服が濡れてしまう!
「陛下! 僕のせいで濡れてしまいます!」
慌てて手を伸ばして、王の服に落ちた雨粒を必死で払った。
「ああ、どうしよう⋯⋯。こんなに濡れて⋯⋯」
「フウル?」
「⋯⋯陛下、このままじゃお風邪をひいてしまいます!」
「フウル?」
「え?」
ハッと気がつくと、優しい瞳が見下ろしていた。
「少し、落ち着こうか? 気遣いはもちろんとても嬉しいが——」
リオ・ナバ王が雨に濡れた前髪を長い指でかきあげて微笑む。
「陛下⋯⋯」
どうしてこんなに優しく見つめてくださるのだろう? もしかしたら⋯⋯、もしかしたら⋯⋯、僕を許してくださるおつもりなのだろうか?
小さな希望が心に浮かんだ次の瞬間だった。
遠くの空から「キーッ!」と耳障りな鳴き声が聞こえた。
ハゲタカだ。
大きなハゲタカがぐるぐると輪を描くように砂漠の上を飛んでいる。十羽以上はいるだろうか?
リオ・ナバ王が、フウルの視線を追いかける。
「なにを見てるんだ?」
「——あの鳥です」
「ああ、あれは別名『罪人たちの番人』と呼ばれているハゲタカだ。我が国には、砂漠でハゲタカに生きながら食わせる、という処刑の方法があるんだ。大昔の話だがな⋯⋯」
「え!」
——ハゲタカに生きながら食べられる処刑?
あまりに驚いたので、リオ・ナバ王が最後につけ加えた『大昔の話』という部分を聞き逃してしまった。
——ああ、そうなんだ。僕はこのためにここに連れてこられたんだ。今からこの砂漠で、あの大きくて恐ろしいハゲタカに、僕は生きたまま食べられるんだ!
処刑される覚悟は決めていたとはいえ、あまりの恐ろしさに体がガタガタと震え出した。
両手で体をギュッと抱いて空を見上げると、顔に雨が落ちてきた。息ができないほどザーザーと強く降ってくる。
——怖がったらダメだ! この雨に塩が混じってしまったら、陛下とこの国の人たちの努力を台無しにしてしまう。塩の雨なんか降ったら、二度となにも育たなくなる!
「僕をはやく処刑してください!」
リオ・ナバ王を見つめて大きな声で言った。
「フウル?」
「はやく、はやく僕を、処刑してください!」
続く
お読みいただきありがとうございます、この中編は明日で完結の予定です! いいねやリアクションもありがとうございます! いっぱいやる気が出ます!!
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