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ふたりの食事

騎士さんってどんなものを食べるんだろう……。 ってか、こっちの食事が合うのかすらもわからない。 そもそも、食材自体もあまりないから大したものは作れないんだけど……。 冷蔵庫の中身をザーッと見渡して、はぁーっとため息が出てしまう。 それでも何か作らないとね。 ご飯だけでも温かいものを食べてもらおうと新しくご飯を炊き、残っていた野菜で野菜スープを作る。 煮込んでいる間に冷凍していた鶏肉をレンジで解凍して、柔らかくなったのを包丁で叩いていると、カタンとお風呂場の方で音が聞こえた。 あっ、出てきたのかな? ふと顔を上げると、 「――っ!」 父さんと同じ服を着ている人とは思えないほどかっこよく着こなしたクリスさんが立っていた。 「これで合っているか?」 随分と袖や裾が短いからクリスさんが不安に思うのも無理はない。 だって、父さんよりも随分と身長が高そうだもん。 それに、手も足も恐ろしく長いから合わないのは当然だ。 でもこれで我慢してもらうしかない。 「大丈夫です。下着も一緒に入れておきましたけど、わかりましたか?」 「――っ、ああ。大丈夫だ。問題ない。それより、何やらいい匂いがしているが」 「はい。今、夕食を作ってますので、もう少し待っていてくださいね」 「トモキは医術だけでなく、料理もできるのか。多才だな」 「そんなことないです。あの、それよりも口に合うかわからないんですけど……」 「そんな心配はいらない。騎士団では野営で食糧が尽きた場合には野草だって食べるのだからな」 そう言ってくれてほっとした。 「よかったです、じゃあそっちで休んでいてください。あっ、寒かったらそこの上着、半纏っていうんですけどあったかいので着てください」 あれならかなり大きいし、クリスさんにだって着られるだろう。 でも、半纏着てる騎士さんって……申し訳ないけど、笑ってしまう。 「寒くはないから大丈夫だ。それよりもトモキは今、何をしているんだ?」 包丁で鶏肉を叩いている音が気になったのか、クリスさんが台所に近づいてきた。 「あの、つくねを作ろうと思って叩いて刻んでたんですけど、包丁があまり良くないので切れ味が悪くって……すみません。音がうるさかったですよね」 「いや、それは気にしないが。これを叩けばいいのか?」 「えっ? あ、はい」 「ならば、手伝おう」 「えっ、手伝うって――わっ!!」 そういうが早いかクリスさんは僕の手から包丁を取ると、ものすごい勢いで叩き続けあっという間にまな板の上には鶏肉のミンチが出来上がっていた。 「すごっ!!」 「これでいいのか?」 「は、はい。ありがとうございます」 「大したことではない。他にも手伝うことはないか?」 怪我人なのに手伝ってもらって申し訳ない気がしたけれど、せっかくそう言ってくれているのだからと急いでミンチをビニール袋に移し、残っていた豆腐と調味料を上からかけた。 「あの、これを全部混ぜてもらえますか? あっ、袋が破れないように気をつけてくださいね」 一言添えたのはさっきのものすごい力を思い出したからだ。 あんな調子で袋を握られたら材料が混ざる前に破れてしまう。 「わかった。手加減するとしよう」 怪我をしたのが左だったのも幸いしたんだろう。 絶妙な力加減であっという間にビニール袋の中のミンチや豆腐は綺麗に混ぜ合わされていた。 「すごいですね! ありがとうございます!」 「もうこれでいいのか?」 「はい。あとは焼くだけなので大丈夫です」 そう言って休んでいてもらおうと思ったけれど、 「ここの生活を学んでおきたいからしばらくトモキの動きをみていてもいいか?」 と尋ねられたので、どうぞという他なかった。 人に料理をしているところを見られながら作るのは緊張する。 手が震えそうになりながら、ビニール袋の中のミンチの形を整えながらフライパンに置いていくと小さめのハンバーグ5つほどができた。 醤油や味醂を入れてつくねにタレを絡めていくとタレのいい匂いが鼻腔をくすぐる。 「ほう、いい匂いだな」 匂いは嫌いじゃなさそうだ。 あとは口に合えばいい。 それだけだ。 早炊きで炊いたご飯がちょうど音楽を鳴らしたと同時に、つくねも出来上がった。 どんぶりにご飯を盛り、クリスさんのに4個乗せ、僕の分はいつも使っているお茶碗にご飯を盛り、その上につくねを一つ乗せた。 彼は騎士団の訓練が終わって帰宅途中だったと言っていたし、きっとお腹が空いているだろう。 タレをかけたどんぶりとお茶碗、そして、野菜スープを装いトレイに乗せ運ぼうとすると、 「私が持って行こう」 とトレイを軽々と持ち上げた。 「あ、でも怪我をしているのに……」 「これくらい片手で持てるから問題ない」 そう言ってスタスタと畳間にあるテーブルに並べてくれた。 慌てて後を追いかけると、 「あまりにも数に違いがなさすぎないか?」 と尋ねられた。 「あ、でもお腹が空いているでしょう? 訓練帰りだと言っていたし」 「それはトモキも同じだろう?」 「いいんです。夜はいつもそんなに食べないので。だから安心して召し上がってください。口に合うかはわかりませんが……」 「しかし……」 クリスさんはそう言いかけたけれど、 「ありがたくいただくとしよう」 そう言って座ってくれた。 「じゃあ、いただきます」 「それは……食事をするときの挨拶か?」 「えっ? はい、そうですね」 「そうか、ならば私も言おう。いただきます」 クリスさんは一生懸命僕に、そしてこの世界に慣れようとしてくれているんだ。 その気持ちがすごく嬉しかった。 それに……誰かと家で一緒にご飯を食べるなんてどれくらいぶりだろう……。 やっぱり一人より全然楽しい。

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