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奇跡よ、再び!
<sideクリス>
一縷の望みを託して、私はその書斎に籠り勲章メダルを抱きしめ続けた。
これだけが私とトモキをつなぐ唯一のものだからだ。
トモキ……。
トモキと離れてから私の頭の中からトモキの存在が消えたことは一度もない。
むしろ思いは強くなるばかりだ。
トモキ……。
会いたい……会いたい……会いたい……。
何度この言葉を吐き出しただろう。
もう一度トモキと会えたなら、もう決して離さないと誓う。
だから、トモキに会わせてくれ。
トモキがいなければ、私の存在など消えたも同然だ。
騎士団長としての職務も、そして公爵家当主としての職務も何もできず生きる屍となってしまうなら、もういっそのこと死を選ぼうとすら思ってしまう。
それでも完全にトモキに会えるという可能性が潰えるまでは、私は生き続ける。
もしトモキが私の元に現れてくれた時に、もう二度と泣かさないために。
トモキ……お前と会えるなら、私はどれだけでも待とう。
だから私のことを忘れないでくれ……。
「団長……少しは食事を取らなければ、お身体に障りますよ」
「ジョバンニ。気遣ってくれてありがたいが、私はちょっとやそっとでは倒れたりはしない。もう少しだけ私の好きなようにやらせてくれ」
「団長……そんなにまで、お相手のことを……」
「ああ。トモキがいなければ、私の人生などどうでもいい。ああ……悪い、騎士団の団長としてはあるまじき発言だな」
ジョバンニの気遣いに応える余裕もない。
私は今はただトモキのことしか考えられないのだ。
「いえ、団長のお気持ちは存じ上げております。あの……バーンスタイン公爵さまが、団長とお話がしたいと仰ってお部屋の前までおいでですが……」
「ジョバンニ。今は父上に会うつもりはない。何度来られても今はそんな気にはなれない」
「承知いたしました。公爵さまにはお引き取り頂いておきます」
「嫌な役目ばかりさせてすまないと思っている」
「いいえ、滅相もございません。団長は今は運命のお方のことだけお考えください。余計なことをお伝えして申し訳ございません」
ジョバンニは深々と頭を下げ、書斎を出ていった。
父上は私の状況をジョバンニから知らされて、謝罪のために何度も何度も部屋にやってくる。
だが、どうしても許す気にはなれないどころか、父上の顔を見る気にもなれない。
今はただひたすらにトモキのことだけを考えて過ごしていたいのだ。
トモキ……お前は今何をしている?
あの部屋で泣いているのではないか?
すぐにでもトモキを抱きしめてやりたい。
そしてもう二度と離れないと安心させてやりたい。
日を追うごとにトモキへの思いが増していく。
トモキ……会いたい……。
「団長……飲み物だけでもお召し上がりください」
食事も摂ろうとしない私のためにジョバンニが足繁く通ってくれる。
「迷惑をかけてすまないな」
「いいえ、団長にはこれまでずっとお世話になってきましたから。これくらい大したことではございません」
「ジョバンニがいてくれて本当に助かってる」
「団長……」
「だが、私はトモキへの思いに胸が張り裂けてしまいそうだ。どれだけ思ってもこのままトモキに出会えないのではないか……以前の私なら、絶対に思いもしない消極的な思いまで頭を過ぎる。トモキに会えない寂しさが私をこんなにも脆くしているのだ」
「団長らしくないですよ! それでもこのビスカリア王国最強の騎士ですか? もっと思いの丈をぶつけたらいいじゃないですか!!」
「ジョバンニ……」
ジョバンニに叱咤されるとは思いもしなかった。
ああ、トモキにもこうやって注意されたのだったな……。
あの時から私はトモキに惹かれていたんだ。
「――っ、団長っ! 出過ぎたことを申しまして申し訳ございません。私が団長をお泣かせするなど……」
泣いてる?
私が?
人前で泣くなど物心ついてから一度も無かったのに……。
トモキのことを思うだけで自然と出てしまったのだな。
もう心が限界なのかもしれない。
――もっと思いの丈をぶつけたらいいじゃないですか!!
さっきのジョバンニの言葉が甦る。
そうだな。
このまま心を壊してしまうならその前にトモキに思いを……。
「ジョバンニ……お前のおかげで素直に言葉にできそうだ」
私は深呼吸をして、ありったけの声でトモキへの思いを叫んだ。
「私にトモキを返してくれーっ!!! トモキを愛してるんだ!!!」
全身から訴えるように叫んだその瞬間、目に溜まっていた涙の雫が手に持っていた勲章メダルにぽたっと落ちた。
と同時に、あの見覚えのある閃光が私を、そしてこの部屋を包み込んだ。
「くっ――! まさかっ!!! 私の願いが叶ったのか?!」
目を開けていられない眩しさの中で、私はもしやという期待に胸を膨らませていた。
それからしばらくしてフッと光がおさまった気配を感じて、恐る恐る目を開けると
「――っ!!!」
夢にまでみたトモキの姿がそこにあった。
「トモキっ!!!」
全てを投げ捨て、トモキに駆け寄ると私の声に反応したのか、トモキがパッと顔を上げる。
目があった瞬間、トモキの大きな目にあっという間に涙が溜まっていった。
「クリスさんっ!!!」
「ああっ! トモキっ!!! 本当にトモキなのかっ!!! もっと顔を見せてくれっ!!!
「クリスさんっ!! クリスさんっ!!! 会いたかった!!!! 会いたくて会いたくて――」
「ああっ、私もだ! トモキと会えない時間がどれだけ辛かったか……。もう絶対に離さないぞ!!!」
トモキが私の腕の中にいる。
この温もりをもう一度感じられるなんて!!!
ああ、神よ!
私にトモキを返してくださってありがとうございます!!!
「トモキっ!!!」
「クリスさんっ!!!」
これ以上ないほど強く抱きしめ合いながら、トモキの唇を奪う。
あの時と同じ甘い唾液に本当にトモキなのだと実感する。
トモキへの思いが込み上げてそのまま深く激しい口づけを交わす。
まだ口づけになれないトモキが
「んんっ」
と苦しげな声を上げるのが耳に入って、名残惜しく思いながらもゆっくりと唇を離した。
ぐったりと私に身を預けるトモキは私の知っているトモキより少し痩せているように見えた。
「トモキ……身体は――」
「そこにいるのは誰です?!」
私の声にかぶさるように突然ジョバンニの声が響き、ジョバンニがさっと私とトモキの前に立ちはだかった。
「ジョバンニ、誰に言っているんだ?」
トモキを抱きしめたまま、ジョバンニの見つめる方向に目をやるとそこに思いもかけない人物が横たわっていた。
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