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タツオミの決意

「私は……このまま、この地に留まり骨を埋める覚悟でいます。ですから、クリスさん……もし、できるならどこか働き口をご紹介いただけないでしょうか?」 その真剣な眼差しに、タツオミの並々ならぬ思いを感じた。 「タツオミがここに留まってくれるというのは私とトモキにとっても大変嬉しいことだ。それにタツオミならば、紹介できる仕事はたくさん用意できるだろう」 「本当ですかっ!」 タツオミの嬉しそうな表情の隣で、ジョバンニもまた嬉しそうな表情をしている。 もしや……。 私の中に一つの考えが頭をよぎった。 「タツオミ……ひとつだけ聞いてもいいか?」 「はい、何なりと」 「其方にとってこの地は縁もゆかりもない、見るもの全てが見慣れぬ土地だ。しかも、其方やトモキがいた世界と比べて不便なこともあるだろう。それなのに、故郷を捨ててまでここに留まりたいと思った理由はなんだ? 聞かせてもらえないか?」 私の言葉にタツオミよりもジョバンニが強く反応した。 そして、不安げにタツオミを見つめている。 さて、タツオミはなんと答えるだろうか……。 そう思って見つめていると、タツオミは今までみたこともないような優しい笑顔を浮かべ、 「私にも失いたくない大切な人ができました。その方とここで一生添い遂げると誓ったのです。ですから、私はここで新しい人生を歩む決意をしました」 と堂々と言い切って見せた。 やはりそうか。 それでもジョバンニの名を言わないのは、ジョバンニのためか……。 きっと上官である私を気遣ってくれているのだろうな。 ならば、こちらから言ってやろう。 「ははっ。そうか、よかったな。タツオミ、それにジョバンニも」 「「えっ?」」 私が気づいていないとでも思ったのか? タツオミの様子はともかく、ジョバンニの様子を見ていればこの二人の間に何かあったのは一目瞭然だ。 なんと言ってもジョバンニがこんなにも愛しい眼差しでタツオミを見つめているのだからな。 「だ、団長……いつからお気づきだったのですか?」 「部屋に入ってきた時からだ。ジョバンニにしてはやけに距離が近かったからな」 「それだけで……?」 「お前は気づいていなかっただろうが、かなり表情に出ていたぞ。視線もタツオミばかりを向いていたしな」 「そんな……っ」 ジョバンニが恥ずかしさに頬を染めると、そっとタツオミが頬を撫でる。 まるで私に、赤くなったジョバンニの顔を見せたくないとでも言うような仕草だ。 タツオミもトモキのことに関してはかなり表情も豊かであったが、それには恋愛の情というよりは父子のそれに近かっただろう。 ジョバンニに対する態度とは全く別物だ。 あまりにも仲の良いタツオミとトモキの様子に嫉妬したこともあったが、ジョバンニと一緒にいるのを見るとそんな嫉妬などただの杞憂だったのがよくわかる。 だが、ジョバンニがまさかあちら側だったとは思わなかったが、タツオミとの縁ならそれもなくはないか。 私とジョバンニが揃って異世界から運命の相手を娶るとは思わなかったが、それも運命なのだろう。 「あ、あの……もしかして、今の話って……マスターとジョバンニさんが、その……」 少し遅れて私の腕の中にいるトモキがようやく話の内容を理解したように言葉を発した。 「ふふっ。そうだ、二人も我々のように運命だったというわけだよ」 ウブで色恋には疎いトモキにはタツオミの愛しいものをみるあの甘い視線も、ジョバンニの緊張に震えるあの表情も分からなかったのだろうな。 そんなところも含めて、私はトモキが愛おしくてたまらないのだ。 「どうだ? タツオミには騎士団で料理を作ってもらうというのは」 「えっ、それは……」 「はい。そんな素晴らしい仕事をいただけるのならぜひ!」 難色を示したジョバンニとは反対に、タツオミはなんとも嬉しそうな声をあげた。 「ジョバンニ、何か不都合でもあるのか?」 「あ、いえ。そのようなことは……」 「まぁいい。二人でよく話し合って答えを出してくれたら良い。別に答えは急がずとも良いからな。私もしばらくは騎士団の訓練は休むつもりだ。ジョバンニ、その間はお前に任せるから頼むぞ」 「……承知いたしました」 一瞬言葉に詰まっていた様子だったが、トモキの状態を見れば一目瞭然だろう。 ジョバンニは納得してタツオミと共に部屋を出て行った。

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