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まさかの事実
<sideジョバンニ>
「これならお出かけになられても大丈夫ですね」
「わぁ! よかった」
無邪気に喜ぶトモキさまとは対照的に団長は少しがっかりなさっているようだ。
「これでクリスさんのお父さんと国王さまにご挨拶できますね」
「ああ。そうだな」
トモキさまには笑顔を見せているが、私にはわかっている。
本当はトモキさまを紹介するのが気が進まないのだ。
それは反対されるからだとかそういうことでは決してない。
陛下も公爵さまも大喜びになるのは間違いない。
なんせ、我が国の救世主となるべきお方なのだから。
トモキさまがこのビスカリア王国に現れてから、隣国からの侵入はほとんど見なくなり、団長と正式に交わりを交わしてからは平穏そのもの。
そう。
トモキさまがこの世界にいらっしゃるだけで、我が国は安泰なのだ。
だからこそ、陛下と公爵さまが反対などするはずもない。
団長の気が進まないのは、トモキさまが可愛すぎるからだ。
陛下と公爵さまがトモキさまの可愛さをお知りになるのがいやで仕方がないのだ。
血筋なのか、陛下も公爵さまもかなり優れた容貌をなさっているが、トモキさまが心変わりすることは到底あり得ない。
けれど、トモキさまにとって陛下と公爵さまは愛しい伴侶のご身内。
きっと呼び出しを受ければ断ることはなさらないだろう。
そうなって今まで独占していた二人の時間が奪われることを危惧しているのだ。
まぁ、その点に関しては私も気持ちはわかる。
トモキさまが陛下と公爵さまにご挨拶に行かれるときは、タツオミも一緒に伺うはずだ。
なんせタツオミも異世界からこちらにやってきた身。
ある意味、タツオミも救世主だと言える。
だからタツオミもご挨拶をしなければいけないが、タツオミのあの身のこなし。
そして、料理も上手だと知られたら確実に騎士団に推薦されてしまうだろう。
以前、団長からその話があった時は結局やんわりとお断りをいれ、今は私の補佐として事務仕事を手伝っていただいている。
そのほうがずっと一緒にいられて何よりも仕事も捗るのだ。
けれど、陛下直々の推薦なら断ることもできない。
その可能性を考えるだけで、タツオミがご挨拶に行くのが気が重くて仕方がない。
「陛下との御拝謁は明日でよろしゅうございますか?」
「ああ。そうだな。そうしてくれ」
「承知しました」
マイルズが早馬を出しに行った。
もう変更もできないな……。
「タツオミ、明日其方も一緒に登城するからこの前仕立てておいた正装を着用してくれ」
「わかりました」
「それからジョバンニ。わかっていると思うがお前も一緒だぞ」
「えっ? 私も、でございますか?」
「当然だろう。お前とタツオミは実質的に夫夫 なのだろう? 陛下の前で正式な夫夫としてご挨拶しなければならないだろう。お前も王族なのだからな」
「「えっ?」」
団長の言葉にタツオミとトモキさまが揃って驚きの声をあげる。
何かおかしな話でもあっただろうか?
<side龍臣>
智己の体調がようやく回復し、明日この国の王の元に挨拶に行くことになった。
そのことは以前からクリスさんに言われていたから覚悟もできているが、ジョバンニが時折浮かない顔をしているのが気になっている。
私が挨拶に行くと問題でもあるのだろうか?
気になることは聞いてみるに限る。
後で二人になった時に聞いてみるとするか。
そんなことを考えていると、クリスさんの口から驚きの言葉が飛び出した。
「お前とタツオミは実質的に夫夫なのだろう? 陛下の前で正式な夫夫としてご挨拶しなければならないだろう。お前も王族なのだからな」
ジョバンニが……王族?
嘘だろう?
私はそんな相手に出会った初日に手を出してしまったというのか……。
まさか、陛下の前でそのことについて断罪され、ジョバンニと引き裂かれたりしないだろうな?
「あの、何か?」
あまりの驚きに声をあげてしまったものだから、ジョバンニが不思議そうに尋ねてくる。
「あ、いえ。あの、ジョバンニ……あなたは王族だったのですか?」
「えっ、はい。お話ししたことはなかったでしょうか? 実はそうなのですよ。と言っても、現国王さまでいらっしゃるアンドレアさまからはかなりの遠戚になるのですが、一応王族として教育は受けているのです。申し訳ありません。もうてっきりお話ししているものかと……」
「あ、いえ。別に謝ることではありませんよ。私が勝手に驚いただけで……。ならば、クリスさんともご親戚というわけなんですね」
「はい。そうなんです。ですが、団長は陛下の甥にあたるお方ですから、同じ親戚といっても身分は全く違いますよ」
そういって笑顔を見せてくれるけれど、それでも王族は王族。
自分のしでかしたことが少し不安になる。
本来ならば、陛下に結婚のお許しを頂いてから契りを交わさなくてはならなかったのではないか……。
不安で仕方がないが、私にはジョバンニと離れる選択肢はない。
陛下に認めていただけるように誠心誠意尽くすのみだ。
クリスさんと智己の部屋を出てジョバンニと二人で客間に戻る。
部屋に入ってすぐに、私はジョバンニに話がしたいと持ちかけた。
一瞬ジョバンニの表情が曇ったような気がしたが、気のせいだろうか?
気になりつつもまずは話をしておかなければ。
「タツオミ、どうなさったのですか?」
「ジョバンニ……私の話をよく聞いてください」
真剣な表情でジョバンニの綺麗な瞳を見つめると、ジョバンニはゆっくりと頷いてくれた。
「私は陛下にどれだけ反対されようとも、ジョバンニと別れるつもりはありません」
「えっ?」
「ジョバンニと結婚するまでの順番が間違っていたことは誠心誠意詫びるつもりです。ですが、それはジョバンニとの交わりを後悔しているわけではありません。たとえ、陛下もクリスさんのお父上にもジョバンニとの結婚を認められなくとも、私はジョバンニ以外を伴侶にするつもりもありませんし、ジョバンニが他の誰かの伴侶にさせるつもりもありません。それだけはわかっていてほしいんです」
「タツオミ……」
「ジョバンニ……わかってくれますか?」
「もちろんです。ちゃんとわかっていますよ」
「ああーっ、ジョバンニ!!」
満面の笑みでそう返してくれて、私はただただ嬉しさが止まらなかった。
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