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第二の人生

<sideクリス> 「タツオミ、ジョバンニ。今日は屋敷で食事をしないか?」 タツオミとジョバンニに久しぶりに会ったのだ。 トモキが喜ぶだろうと声をかけてみたが、二人っきりがいいと断るだろうか? 「喜んでお伺いします」 「えっ? ああ、そうか。よかった」 悩むこともなく二人とも即答で驚いたが、 「わぁっ! 一緒に食事ができるんですか?!」 と喜んでいるトモキの姿を見ていると、私だけでなくジョバンニもタツオミも笑みが溢れていた。 どうやら、トモキのために私が二人を誘ったのだと気づいてくれたようだな。 馬車で屋敷まで戻り、マイルズにジョバンニとタツオミの分も食事を頼むと言ったが、 「はい。そんなこともあろうかとすでにご準備整ってございます。いつでもご用意できますが、すぐにお召し上がりになりますか?」 という言葉が返ってきた。 ああ、やはりマイルズは流石だな。 「少し話をするから後で声をかける。先に紅茶を持ってきてくれ」 「承知しました」 マイルズは頭を下げると、すぐに紅茶の準備に取り掛かった。 「じゃあ、我々はあちらで待つとしようか」 トモキを腕に抱き、ジョバンニとタツオミを連れてリビングへ向かう。 私はトモキを抱いたまま、ソファーに腰を下ろすと、すぐにマイルズがやってきて目の前に紅茶を並べ、すぐに部屋を出ていった。 「二人とも楽にしてくれ」 「はい。失礼します」 「今日は二人ともお疲れさまだったな。特にタツオミ、よくやってくれた。新人騎士たちへの訓練は思いの外、大変だったろう? これからもかなり頑張ってもらうことになると思うが大丈夫か?」 「はい。久しぶりにいい汗をかかせていただきました。それにこれからまだ成長しそうな者ばかりですから、楽しみの方が大きいですね」 「そうか、タツオミがそう言ってくれるなら安心だな。少し、二人に相談したいことがあるのだが聞いてもらえるか?」 私の言葉にタツオミとジョバンニは不思議そうに顔を見合わせた。 「団長が私たちに相談など、珍しいですね」 そう思うのも無理はない。 だが、この件は二人の力なくしてはできそうにない。 「私は少しでも早くトモキの願いを叶えてあげたいと思っているんだ」 「えっ……クリスさん、それって……」 「ああ、先日陛下にお会いした時に望んでいただろう? 医術を学び、ゆくゆくは騎士団で働きたいと」 「は、はい」 「正直にいえば、トモキにはずっと私のそばでいてもらいたい。だが、トモキはあちらの世界での生活を全て捨てて私の元にきてくれた。それだけの覚悟をして私の元にきてくれたのだから、トモキの願いはなんでも叶えてあげたい」 「クリスさん……」 「だが、トモキを私の目の届かない場所にやるのはやはり心配だ。だから、ジョバンニにトモキのそばにいてもらいたいのだ」 「えっ……」 私の言葉にジョバンニは言葉を失っていた。 それはそうだろう。 私の右腕としてずっと支えてくれたのだ。 だが、それ以外に方法は考えられなかった。 「今日の訓練で、タツオミが私の想像以上の働きをしてくれた。だから、日々の訓練はタツオミと私で行い、ジョバンニはトモキがニコラスの元で医術を学ぶ傍らで事務仕事をしてもらいたいと考えている。もちろん、特別な訓練はジョバンニの力が必要だ。その時は副団長として皆を引っ張ってもらいたいと思っているが、ジョバンニの気持ちはどうだろうか?」 「ちょっと待ってください、団長。私など、まだまだジョバンニの足元にも及びませんよ。智己が心配だというのなら、私が智己の護衛となります。事務仕事もジョバンニのようにはいきませんがやって見せます。ですから、ジョバンニを訓練から外すのは――」 「団長、そのお話……お引き受け致します」 「ジョバンニっ!!」 タツオミが驚きの声をあげる。 「毎日事務仕事ばかりになるのですよ? いいのですか?」 「タツオミ、心配してくださってありがとうございます。ですが、私も今日の訓練を見て思っていたのです。タツオミの訓練は騎士たちが活き活きとしていると」 「そんなこと……」 「いいえ。本当です。近年、我がビスカリア王国では他国からの侵入に備えて兵力の増強に努めていましたが、トモキさまとタツオミがこの世界にきてくださってからというもの、平穏な日々が続いています。これもひとえにお二人の力のおかげでしょう。ですが、これに慢心せず有事の際に備えて兵力の増強に努めることが大事だと思っています。騎士団の兵力の底上げは、国民の安心にもつながるでしょう。そのためには、私ではなくタツオミと団長とで騎士たちに訓練をなさるべきです。事務仕事も立派な騎士団の仕事ですし、何よりも、騎士たちが怪我を恐れずに訓練ができるように医務室の充実を図ることも大事な務めです。トモキさまが医師になることは、この国の医術の発展に大き影響を与えられるはずです。そのお手伝いができるなら、私は喜んでさせていただきたい」 「ジョバンニ……」 「タツオミ、私は本心からそう思っているのです。私はあなたに嘘などつかないことはご存知でしょう?」 ジョバンニの笑顔にタツオミは小さく頷き、そして、そのままジョバンニを抱きしめた。 「団長、ジョバンニがそう望んでいますので、私もそれに賛同します」 「そうか。ありがとう、本当にありがとう」 「トモキ、これで足場は整った。ニコラスからトモキが勉強を始めても良いと許可が出たらすぐにでも始めよう」 「……あの、ジョバンニさん……本当にいいんですか?」 自分のせいでジョバンニが無理をしていると思ったのだろう。 不安そうに尋ねるトモキにジョバンニは 「トモキさま。少し二人でお話ししましょうか?」 と声をかけた。 トモキが頷くのを確認して、ジョバンニは私とタツオミに少し離れていてほしいというので、私たちはリビングから出た。 <sideジョバンニ> 団長からの相談は寝耳に水といえばそうだったかもしれない。 けれど、タツオミの訓練を真剣な表情で見ている団長を見て、何かを考えているとは思っていた。 トモキさまが医術を学びたいと言ったのを陛下は了承なさった。 その時からずっとどうしたら安全にトモキさまに勉強をさせてあげられるかを団長は考えていたのだろう。 タツオミが騎士団の訓練を担ってくれれば、私は事務仕事に専念できる。 正直なところ、私にとっては願ってもないチャンスだった。 私がそもそも騎士団に入団することになったのは、クリスティアーノさまが騎士団に入られたから。 あのクリスティアーノさまと話ができるのが当時私しかいなかったから、父に頼まれて必死に剣術の稽古をしてなんとか騎士団に入ることができた。 けれど、私は元々事務仕事が好きだった。 だから、できることなら文官になりたかったんだ。 必死に訓練をつみ、副団長にまで上りつめたのも事務仕事がしたかったから……というと驚かれるかもしれない。 訓練後に事務仕事もするのは大変だったが、それがこれからはそちらに専念できるのだ。 嬉しくないわけがない。 けれど、トモキさまは自分のせいで私が訓練から外されたと罪悪感を持たれるかもしれない。 だから、これはきちんと言っておかなくては。 「ジョバンニさん……」 「トモキさまが責任を感じることはないのですよ。むしろ私喜んでいるのです」 「えっ? 喜ぶ?」 「ええ。これは二人だけの秘密ですよ。実は私は――」 本当は文官になりたくて、事務仕事だけに専念できることはとても嬉しいことなのだと告げると、トモキさまは目を丸くして驚いていらした。 「本当、なんですか?」 「ええ。だから、私……とても嬉しいんですよ。」 そういうと、トモキさまは嬉しそうに 「二人だけの秘密……守りますね」 といたずらっ子のような目で笑った。 ああ、これから私の第二の人生が始まる。 <side智己> ジョバンニさんから驚きの秘密を打ち明けられてから、数日経ってようやく医師になるための勉強が始まった。 騎士団の中にある少し広めの部屋に、ジョバンニさんの机と僕の勉強スペースが用意され、午前中は予習と復習、そして、午後は3時間ニコラス先生にみっちりと授業を受ける。 その間、ジョバンニさんは事務仕事の傍ら、僕とニコラス先生に飲み物や食事を用意してくれてものすごくいい環境で勉強させてもらっている。 「トモキさまは覚えが早いですね」 「ニコラス先生の教え方が上手なんですよ」 「この分なら1年ほどで医師としての資格も取れそうですよ」 「本当ですか! 僕、頑張ります!!!」 「ふふっ。トモキさまが医務室で働き始めたら、医務室の利用者が増えそうですね」 「えっ? それってどういう意味ですか?」 「ふふっ」 「ははっ」 ニコラス先生の言葉に、ジョバンニさんも一緒に笑っているけれど、一体どういう意味なんだろう? 「あ、ほら。いつもの定期便が来られましたよ」 ジョバンニさんに声をかけられると同時に、勉強部屋の扉が開かれる。 「トモキ! 休憩時間だぞ! お茶にしよう」 「はい。クリスさん!」 優しい人たちに囲まれて、僕は毎日本当に幸せだ。 僕はここで医師になって、今までの恩返しをするんだ。 ああ、本当に僕の第二の人生は幸せでいっぱいだ。

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