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第2話 十年越しの初デート(4)

「って、いきなりお家デートかよっ!」  高山の住むマンションの一室に招かれ、開口一番に突っ込む。てっきり外出するものだと思っていただけに拍子抜けだ。 「だってお前、ゲイっぽい雰囲気見せたくないんだろ? 男二人でデートスポット歩いたり、外食したりとかさ」 「あ……」  言われて気がつく。確かにそういった行為はハードルが高く思えるし、どうにも人目を気にしてしまうものがあった。  本人も言ったかどうか定かでないようなことを、高山は覚えていたというのか。侑人は思わぬところで嬉しさを感じてしまった。 (いやいやっ、なに甘ったるいこと考えてんだよ。高山さんはいつもどおりだってのに、俺ばっか意識してバカみたいじゃん)  そう思うと腹が立ってくる。  高山はさっさと靴を脱いで部屋に上がり込んでいた。侑人が複雑な心境で後を追えば、綺麗に片づけられたリビングダイニングに通される。  広々とした空間は、いかにもお洒落なデザイナーズマンションといった雰囲気だ。家具や家電も品が良いものを取り揃えてあり、モデルハウスのような印象さえ受ける。 「なんだか懐かしいな。こうしてうち来んの、学生のとき以来だよな」 「あの頃は安アパートのワンルームだっただろ。……自慢か、この高給取りめ」  普段はあまり意識しないのだが、やはり住む世界が違うのだと突きつけられた気分だ。  こちらは日用品メーカー営業職。対して高山は外資系製薬会社MR――エリートサラリーマンもいいところである。 (くそっ、やっぱ遊ばれてたりとか……。今までだって、全然そういった素振り見せてこなかったし)  一人で百面相する侑人をよそに、高山はやはりいつもどおりで。 「どうした、さっきから顔が面白いぞ」  平然とそんなことを言ってくるものだから、ついカチンときてしまう。侑人は苛立ちを露わにするかのように、どっかりとソファーへ腰を下ろした。 「べつにっ。ただ、この部屋にどんだけの人数連れ込んだのかなあって思っただけ」  嫌味ったらしく言ってのければ、苦笑が返ってくる。 「おいおい心外だな。確かに昔はそれなりに遊んでいたが、今はそんな気もしねえし、もうお前だけだっての」 「え、冗談だろ」 「なに、まだ信じられないって言うのかよ?」  高山は呆れたようにため息をつくと、侑人の隣に腰を下ろした。 「高山さ……っ」 「侑人」  高山の手がこちらへ伸びてきて、やんわりと肩を抱かれる。  ふわりと香った香水の匂いが鼻腔を刺激し、侑人はドキリとした。いきなりのことで動揺するも、高山は構わずに耳元へと顔を寄せてくる。 「好きだ」  低く甘い囁きが鼓膜を揺さぶった。たった一言だというのに、全身が火照ったように熱くなっていく。 「だからっ……んなこと突然言われても。つか、名前で呼ぶなって」  居たたまれなさに侑人は身を引こうとするも、高山がそれを許さない。肩に回された手に力が込められて、ますます距離が縮まった。 「――……」  顔が近い。吐息を感じるほどの距離に鼓動が激しくなる。 (キスされる……っ)

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