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おまけSS セクシー下着チャレンジ♡(1)
「今日は私のご恩返しです! 全部おごりなので、遠慮せずいっぱい食べてくださいね!」
朗らかにそう声を発したのは、高山の仕事仲間であるウィリアムだ。
その週末、侑人は思わぬ食事へと誘われた。言わずもがな高山も一緒なのだが、落ち着きなく余計なことを考えてしまう。
(なにこれ……世界が、住んでる世界が違うっ!)
ウィリアムに連れられて入店したのは、鉄板焼きのコース料理が楽しめる高級レストラン。しかも個室。
A5黒毛和牛の炙り寿司、すき焼き、鮑の鉄板焼き……と、どれもこれもが簡単に手を出せるような代物ではない。ちょっとした外食にしてはあまりに贅沢すぎるし、まるで会食にでも参加しているような気分だ。
「また随分と気前がいいな。ここまでされるようなこと、何かしたか?」
高山が訝しげに問う。すると、ウィリアムは少し声のトーンを落として答えた。
「フフン。実はですね、ユウトに素敵な《ハッテン場》を教えてもらいましてね」
――ハッテン場。その言葉にぎょっとして、侑人は固まった。
そうなのだ。以前、ウィリアムが興味を示していたので、せっかくだからと侑人も有名どころを紹介したのである。
ちらりと高山の方を見やれば、じっとこちらを見つめていた。
「まさかとは思うが」
「いや、俺は一度も行ったことないから! ウィリアムさんが言うから、ネットでちょっと調べただけっ!」
侑人は言葉を被せるようにして主張する。
一方、ウィリアムはからからと笑ってみせた。
「初めての銭湯、露天風呂もあってサイコーでした! 見せあったり触りあったりしたあと、近くのホテルで赤ちゃんのようにぷくぷくとした――」
「はいはい。その話はまた後でな」
高山がぴしゃりとストップをかける。らしからぬ雰囲気を感じ、侑人はひそひそと耳打ちした。
「ちょっと、ウィリアムさんに冷たくない?」
対して、高山はこれ見よがしにため息をつく。
「友人としては面白いヤツなんだが、たまに気に食わないんだよな」
「え?」
「侑人に馴れ馴れしいし、お前だってニコニコいい顔しやがるし」
「べつにそんなことないって。……つーかあんた、俺が猫被りだって知ってんだろうが」
じろりと睨みをきかせるも、高山は素知らぬ顔だ。
そんなやり取りをしているうちに、ウィリアムが身を乗り出してきた。
「そうそう、ユウトには特別なプレゼントがあるんですよ!」
と、効果音を口ずさんでバッグを漁り始める。一体何だろうかと思っているうち、テーブルの上に小さな紙袋が置かれた。
「わあ、頂いていいんですか?」
「はい! お役に立てたらいいのですが――どうぞ、開けてみてください!」
ほら見たことか、とばかりに高山が視線を送ってきたが、侑人は微笑んで礼を口にしてみせた。
それから紙袋の包装テープを剥がして、
「………………」
思わず顔が引きつりそうになるのを、グッと耐える。
ウィリアムは相変わらず笑みをたたえていた。どこかこちらの反応を見て楽しもうとする意図が感じられるのは、気のせいだろうか。
(相手が高山さんだったら、文句言って突き返すのに!)
内心では歯噛みしながらも、どうにか平静を取り繕おうとする。
「何貰ったんだ?」と高山に訊かれたが、こんなもの言えっこない。
「はは……こういったの、自分じゃ買わないので新鮮です。ありがとうございます」
あらためて礼を告げて、紙袋をさっとバッグに仕舞う。
ウィリアムは満足そうに頷いていた。
◇
数日後の夜。
仕事から帰宅した侑人は、高山がいないのをいいことに、例のプレゼントと向き合っていた。
「『お役に立てたら』って……何考えてんだよ、あの人っ!」
ウィリアムから贈られたのは、俗にいう《セクシー下着》だった。
下衣を脱ぎ捨て、試しに着用して鏡の前に立ってみる。
決して、下着に対して無頓着なわけではない。それなりのものを選んでいるし、高山も「見たことないやつだ」「これいいよな」などと口にしてくれるぶん、気を抜きたくないところではある。
……が、さすがにこの類はいかがなものか。
フロント部分はV字、サイド・ヒップ部分は細い紐状のTバック。透け感のある黒いレース生地。形状はメンズといえばメンズなのだが――あまりにもあからさますぎる。
(もともと高山さんってバイだし、おまけに変態だし。男相手だと、なかなかこういった楽しみってないだろうし……い、いいのかもしれないけどもっ!)
恥ずかしいものは恥ずかしい。侑人はしばらく逡巡したあと、やはりこれはクローゼットの奥に仕舞いこもうと決めた。
と、そのとき。ガチャリと玄関ドアの開く音がしたのだった。
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