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【番外編】納涼・雀荘に巣食う怪異〜呪いのリャンピン牌〜⑨

 フリー雀荘『まだら』の店長は、一日休んだあと、ユニバーサルインテリアの事務所に直接顔を出しに来た。 「親切にしてくれてありがとうございます。さっき来たら、すごくキレイになってて……床とかもコレ、ポリッシャーまでかけてくれました? ぴかぴかになっててびっくりしたんですよ」  気を良くした店長は、最新のデジタル点数表示付きの雀卓をリースしたいと申し出てくれた。  お手柄だと国枝は上機嫌で庄助の頭を撫で回し、庄助は犬のように喜んだ。  調子に乗った庄助は景虎を指して、 「こいつのこと、こき使ってくれてええんで! 無料サービスです、ロバとかなんかそういう……家畜的なやつと思って使うてください!」  と言った。  あの後庄助にめちゃくちゃに怒られ、雀荘の店内の床を全部掃除し、ワックスがけまでしたのは景虎だ。 「いやいやそんな……あ、でもだったら。今日、壁の修理業者さんが来るので。それまでに、棚とか動かしてもらってもいいですか?」  店長は、真面目そうな顔に似合わない子どものように乱雑な文字で、契約書にサインしながら笑った。  暑いのに申し訳ありませんね。  『まだら』の店長は、気の弱そうな笑顔を浮かべながら、店内の空調を操作している。  景虎はスチールのラックを移動させながら、庄助が嵌まっていた壁に穴を見つめた。  真っ暗な中で身体が抜けなくて焦っていたようだが、どうということはない。景虎が庄助(の尻)を発見した時には、ズボンの後ろポケットに入れたメジャーのストラップが、飛び出た壁の芯材に引っかかっていただけだった。  犯すときには動けないようにシャツを固定したが、本当に間抜けだ。  改めてこんな奴にヤクザがつとまるわけないと思ってしまった。  景虎は言われた通り、ラックを指定の場所まで運んだ。ふと壁にかかっている、ちいさな風景画に肩が当たって、額ごと地面に落ちた。  幸いなことに、店長は見ていなかったようだ。何もなかったことにして掛け直そうと、何気なく裏を見た。 「…………?」  そこには、血のように赤い長方形の、御札というのだろうか? それにしては、景虎が知っているものとはずいぶん、書かれている文字が違っている。  よく知らないがそういった御札というのは、普通であれば梵字のようなものが書かれているものだろう。しかしその御札、のような紙には幼児が黒いクレヨンで書きなぐったような乱雑な文字で、 「もうでてこないでください、おねがいですから」  と、書かれていた。 「遠藤さーん、こっち。ウーロン茶飲みませんか?」  店長の呼ぶ声がして、景虎はそちらを見た。  割れた壁の前で、人が良さそうに微笑みながら、店長はペットボトルをこちらに差し出している。  ぽっかりと開いた大人の腰の高さほどのその穴の奥から、赤いネイルの手が何かを探すように壁面をぐるぐると這って、その後また中に戻っていった。 [完]

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