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cigarette:6

黛さんからのメモが置かれていた日から数日。蝉の鳴き声が五月蝿い程聞こえ始めた昼。 仕入れた花の切り花の水揚げなどの仕事をしていた。店長は配達に行き、店には1人残っていたのだが、ドアの鈴が鳴り顔を覗かせると、そこには黛さんが立っていた。 「ま、黛さん⋯?!」 黒いサングラスを掛けているのでどんな目を向けているのか分からないが、軽く手を挙げて小さく笑みを浮かべた。 「何で此処に」 「今日の夜、返事をしに家に行きたいと思ってな。近くを通ったからついでに」 「返事⋯。今此処では駄目なのかよ」 「⋯此処じゃ話せねぇだろ。じゃ、また夜な」 「お、おい待てよ黛さん!」 俺の声を聞かず逃げる様に去って行った黛さん。すれ違いに店長が戻って来て黛さんの話をしたが、「そっか」とだけ返された。 仕事を終え寄り道をせず家へと帰ると、黛さんが来る前に掃除を済ませ待っているとチャイムが鳴った。 出迎えるとそこに立っていたのは黛さんで中に招き入れるとすぐに俺へと頭を下げた。 「⋯お前の言葉も信じずに否定して逃げた事本当に悪かった」 「⋯俺の事を心配してくれて、真剣に考えてくれてたんだよな?別に怒ってもない」 「⋯お前は、まだ俺と番いたいのか?」 「⋯だからこそ、俺はアイツらと縁を切って退学して働いてる」 「⋯それで良かったのか」 「まぁ、元々退学する気だったから」 俺の言葉に黛さんは「馬鹿だな」と、呆れた様に呟くと決心した様にこちらを真っ直ぐ見つめた。 「お前は俺が番で良いのか?これから先、嘘を吐いて、自身を隠して生きてかないといけないのに」 「良いよ」 「⋯子供も産めない」 「ん」 「⋯俺と番えれば共犯者だ。それでも良いのか」 「だから良いって言ってる」 手を握ると微かに黛さんの手は震えていた。 黛さんと番えれば、俺は共犯者だ。犯した罪を理解しつつ隠す事は許されない。例え、相手が犯罪者であってもだ。 だが、店長の様な被害者達はその悲しみが消える事は無い。加害者が忘れたとしても死ぬまで消えない傷だ。 もしも俺が黛さんの立場だったら、同じ事をしているだろう。 「⋯本当に馬鹿だなぁ、お前は」 「アンタに言われたくねぇし。俺の事なんて気にせずに逃げたら良かったんだ。俺にはアンタの居場所を見付ける事は出来ねぇだろうし」 「⋯そうだな」 「⋯番にしてくれんの?」 そう問い掛ければ、黛さんは短く「おう」と返事をしたので、嬉しさの余り口付けをしようと思ったが普通に手で抑えられた。 「なんで止めんだよ」 「今すぐ番にする訳じゃねぇんだよ」 「あぁ?!」 「まだ早い」 「んだよそれ!」 「⋯援交」 「ブハッ」 危ねぇ事してる癖にそういうのは気にするのかと吹き出したのが面白くなかったのか頭を叩かれた。少し痛かったのだが、すぐに番になれない腹いせとして首元に噛み付いてみた。 「ッ、お前⋯!」 「これくらい許せよ、黛さん。」 白い肌に歯型は結構目立つが、自分のモノだと思えて嬉しく思う。本人は痛そうに顔を顰めているが。

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