「あれを理解できているのか。すごいな大河⋯⋯たんは」 「え？」 「え？」 聞き間違いだろうか。だが、小口も同じ反応をしていたため聞き間違いではないようだ。 我が耳を疑っている時、少し距離を取っていた大河が身を乗り出して御月堂のことを見上げていた。 そのことに気づいた時、とても驚いた。 大河にとっては見知らぬ人達ばかりで慣れるはずがない状況で、しかも姫宮よりも表情が表に出にくい相手を特に怖がっていたから、初めてそのような興味を示しているとは思わなく、一種の感動を感じていた。 その感動を密かに感じている時、小口が「そういえば」と開ける気のない目で御月堂のことを見た。 「今日は完全なお休みなのですか」 「そうだ」 「へー⋯⋯そうなんですか」 下から上へと目線を向けて言う小口に「一体なんなんだ」と大河の前であるからか控えめにされどそのような目を向けられて不愉快だと言わんばかりに言うと、「この際言いますが」と前置きをし、 「休みの日でもスーツなのですね」 小口が指摘するように、もはや見慣れた上等そうなスーツ姿だ。 だから、時間ができたというのも仕事の合間かと、すぐに行ってしまうのかと思っていた。 「これが普段着のようなものだ」 「私が思うような普段着ではありませんね。もう少しラフな格好を心がけた方がよろしいのでは」 ラフな格好⋯⋯。 御月堂もイマイチぴんと来ていなかったようで小口に尋ねている横で、同じく一般的な格好が分からない姫宮も考えていた。 まず最初に浮かんだのは、かつて身体の仕事をしていた際に相手をしてきたあまたの客の格好。 大概は御月堂のようにスーツが多く、次に中はシャツでジャケットを羽織っていたり、シンプルな色合いのシャツにやたらアクセサリーを身に付けていたりと様々な客がいた。 しかし、どれもはっきりとそういう格好をしていたと断定できないが、それらを御月堂に当てはめてみたが、どれもしっくりとこない上に、あまりにも似合わなく、思わず小さく笑ってしまった。