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第2話 お前そっくりだな
意識を手放してみれば後はほんの一瞬の出来事だった。真っ白になった頭と真っ黒になった視界から解放された俺を立ち構えていたのは、緑生い茂る草原。
次に感じたのは音も心地よく、吹かれていると自然と癒される、強くもなければ弱くもない、何故かだるい身体に効く理想的な風だ。
さっきまで気を失っていたのに何故か直立不動な自分の違和感に気がついたのは、今さっき。
「……は? え、どこ?」
俺は今さっきまで図書室にいたはずだ。なんで草原にほっぽり出されてんだ。
持ち物は、さっきまで読んでいたスピリチュアル本と、勉強道具やスマートフォンが入っているリュックサックのみ。……あ、スマホ!
「圏外……」
急いで開いてみたが、結果は芳しくなかった。何だここは、電波が通じないぐらいの僻地だってのか。仕方ない、あたりを見渡してみよう。見渡せばそこにあるのは、草花と、木と、あと数メートル先に湖も発見。あとは……だるいこの体にはたいそうだろうが、森を一つ抜けた先にお城? のようなものが見えた。西洋のファンタジー作品に出てきそうなぐらい立派な城だ。
「まさかの海外?」
嫌だよ初めての海外進出がこれとか。もっとちゃんと身長伸ばして彼女も出来た万全の状態で、正式な手続きを踏んだ上で上陸したかった。どうしたものかと悩んでいると、背後から気配がした。
「だ、誰だ!? て!?」
色んな意味で驚いた。まず俺の身体は思ったより疲労を溜めていた、だるいかったり考え事をしてたとは言え、ここまで至近距離で近づかれないと気付かないぐらいボーッとしていたなんて。次に、奴の身長がとてつもなく長い、何だこれは180は確実にあるな。お前も俺の敵だ。
そして何よりも驚いたのが、その容姿があまりにも、
「い、虎杖?」
「?」
逆陸虎杖だった。西洋風の黒と白を基調とした制服に、股下何メートルあるんだってぐらいの長い足、ほんでこの憎たらしいぐらいの彫り深めな緑目が綺麗な西洋風イケメン。気持ち赤髪が長い気がするがそれも含めて全てがマッチしている。童顔でぽやっとした俺にその彫りも分け与えろ。まあいい、知ってる人間がいたんなら好都合と言ったところ。
「なあ虎杖、ここどこなんだよ」
「~~、~~~。ーーーーーー?」
「ん? ごめんもう一回言ってもらっていいか?」
「……ー、~~~~~~~~~~~」
英語でもなければ日本語でもない、流れるように聞こえる不思議な言語を使いやがる。そんなよくわからん国の言葉も喋れるのかコイツはと感心していたら、不意に手を掴まれる。あまりに自然な流れで一瞬思考が止まった。その隙を逃さずまた聞きなれない言葉を言ったと思うと、また光に包まれた。
「な、何だこれ!?」
反応出来たのは4秒後、すっかり光が消えてしまった直後のことだった。この時点で自分が大変な所に来てしまったと本能で悟ったが、まだ頭脳が、理性が納得していなかった。
「この国の言葉がわかるようにしたよ、僕の声聞こえてるかな?」
「く、国?」
言ってる言葉はわかるが意味がわからない。やっぱ外国じゃねえか。ってか何ださっきの最新技術でも遠く及ばないハイテクな奴。一瞬にして言葉の壁を取っ払いやがった。
「分かるみたいだね。えっと君いくつ? お父さんとお母さんは?」
「え? どしたんだよ虎杖」
「イタドリ……? えっと、それが君のお名前かな?」
いや、お前の名前のつもりだったんだが。ってかその目線低くして子供に対していう感じのやつやめろ、中学2年の時駅員さんに小学生だと思われて凄い丁寧に扱われたあの悪夢が蘇るから。
兎に角ここが何処なのか。あとコイツが虎杖じゃないのはその、何となくわかったから、であればお前は誰なのか。さっき使ったハイテクな能力について詳しく。あと身体だるいからどっか休める場所知らない? だめだ聞くことが多すぎて脳がパンクし始めている。さっきから続くこの極限状態は何故だかだるくなってしまったこの体には相当な毒だったようで、思わず膝をついてしまった。
「えっと、大丈夫ですか?」
「あーうん……ちょっとだるいかも」
「怠い? ちょっと失礼するよ」
フラフラしている俺を座らせ、でこに掌を乗せてくる。ありがとな、虎杖のそっくりさん……虎杖2号でいいか。初対面の俺相手に心配してくれているんだな強いていうなら胡座座りしてるその上に俺を座らせないで、なんか恥ずかしいから。
「これは、えっと……魔力のパスが外れてる? ま、まさか……」
1人で何やらブツブツと言い始めているが俺はそんなの気にしない。いや気にならない辛い辛くなってきた。身体が重いだけしなくて熱っぽくなってきた。どうした、風邪か? いや何というか、熱っぽいだけで風邪って感じの寒気はないんだよな。
「ちょ、ちょっと辛いから横になるな」
そう言うと、今までおおらかだった虎杖のそっくりさんは急に慌て始める。どうしたんだ別に死ぬってわけでもあるまいし……
「その、結構まずい状態だからさ、早めに何とかしないと。今は応急治療しか出来ないけど……やる?」
なんだ、治療法があるのか。兎にも角にも辛くて敵わんかった俺は、楽になりたいというあまりにも安易な理由で、それを受け入れてしまった。
「……わかった」
目が据わったそれに気がつくも既に手遅れ。気が付いていても不自由な身体とこの体格差ではどうしようもなかっただろと言われたらそれまでではあるけれど、言い訳はさせてくれ。
ここで俺は、この妙な国の洗礼を受けることになったのだ。
まずは慎重に俺の身体をまじまじと見たかと思えば、無抵抗なのをいいことにゆっくりとズボンのベルトを取り始めた。
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