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知らぬ間に 2

「誠治、ただいまー」    平日の真夜中にも関わらず、うっかり普通の声量で言ってしまい、顔をしかめる。  今日はすごく気分が良くて、歩きながら鼻歌まで出た。  文哉には「嘘だろ?!」「恋人なんていなかったじゃん!」と抗議され、イケおじの目の光が復活しかけたが、職業柄ずっと曖昧にしてきたこと、誠治との思い出話、ノロケ話をすると一気にお祝いムードに変わった。  文哉の「これはお祝いだろっ!」という掛け声で、あれよあれよと常連客を巻き込んでパーティーが始まり、さらにはお祝いを持って駆けつける人も現れ、店内は大賑わいとなった。  途中、イケおじが不機嫌そうな顔で帰って行った。  すまない、イケおじ。俺には誠治がいるから諦めてくれ。  そして、今日はいつになく多くの客が閉店まで残り、最後は皆で乾杯をして解散した。  こんなに気分がいいのは初めてだ。  誠治も呼べとうるさい客に、今日は無理だと何度も断ると、今度あらためてパーティーだぞ! と約束させられた。  誠治……いいって言うかな。    今日は誠治の出迎えはなかった。平日に出迎えてくれる日は、そのほとんどが俺の帰宅の音や声で目覚めたときだ。今日はパーティーが長引いて、もうすぐ明け方だ。起こさずに済んでよかったとホッと息をつく。  さすがに今日は飲みすぎたな。これで風呂に入ったら誠治に怒られるやつだ。仕方ない、明日にしよう。  洗面所で寝る準備を整え、誠治の眠るベッドにそっと潜り込む。  すると、誠治がその気配に気づいて薄く目を開けた。 「……友樹さん……おかえりなさい……」 「ただいま。いいから寝ろ」  そう言いながら腕を伸ばすと、寝ぼけた顔で擦り寄り、俺の胸に顔をうずめた。  あ、やべぇ。シャワー入ってねぇんだった。……臭ぇかな。 「おやすみなさい……友樹さん……」 「おう、おやすみ」   腕の中で誠治がふふっと笑い、「友樹さんの匂い……」と言いながら顔を胸に押し付ける。  ほんと……このギャップがやばいんだよな。  腕枕をするときは男らしくて、されるときはまるで猫のように可愛い。タチネコではなく本物の猫だ。  あーくそ。襲いたくなるから可愛いのもほどほどにしてくれ。  誠治の額にかかる前髪を指でそっと払いのけ、額に優しく口づけた。   「ん……友樹さん……」    誠治は胸に頬をすり寄せ、ささやいた。「愛してます……」と。   「……っとに……襲うぞ、こら」    聞こえるか聞こえないかの声量だったのに、誠治がまたふふっと笑ってそれに答える。   「いいですよ……襲ってください……」 「……ばぁか。今から襲ったら朝になっちまうだろ」 「ん……いいですよ……」 「医者の不養生って言葉、知ってるか?」 「さぁ……知りません」    まだ少し寝ぼけながらもとぼけた口調で答え、甘えるように頬をすり寄せながら、胸から首、顔へと近づいてくる。 「おい、マジで寝ろって」 「だって……友樹さんが、『襲う』なんて言うから……期待しちゃうでしょう?」  すりすりと頬に甘える誠治が可愛くて、はぁ……と深いため息が出た。 「いいんだな?」 「はい……襲ってください……」  まだどこかぼんやりとした表情で、寝起きのかすれ声を耳元で響かせる。 「……たく。知らねぇぞ?」  ふふっと笑ってキス待ち顔で微笑む誠治の唇を、奪うようにふさいだ。 「ん、……ンぁ……っ」  今日はネコ。そういうときの誠治は本当にやばい。甘えるような声と仕草が、俺をたちまち雄にさせる。  誠治の舌に吸い付くと、嬉しそうに顔をゆるめて首に腕を回してくる。その仕草一つとっても、俺のそれとは違う。腕の動きから、誠治がどれほど甘えているかが伝わってくる。くそ可愛いネコだ。 「は……ぁ、ゆ……きさん……」 「ん?」 「ちくび、して……ください」  パジャマを脱がして下を撫でると、乳首を催促された。  さっさと終わらせて、少しでも寝かせてやろうと思ったのにこれだ。 「ほんと、知らねぇからな」 「え……? ぁンっ、はぁ……っ」  大好きな乳首への愛撫に素直に声を上げてよがる誠治に、俺の下半身が反応した。 「あぁっ、イイ……んっ、もっと……っ」 「もっとやったら出ちまうだろ?」 「も……っと……ゆうきさん……」  熱を帯びた視線で見つめられ、思わず息を呑む。  ……たく。何度も出すと疲れるだろ。一回で終わらせてやりたかったのに。 「後悔すんなよ?」  誠治の可愛くぷっくり立ち上がった乳首に吸いつきながら、舌先でコロコロ転がすように舐め、時々甘噛みをする。もう一方の乳首は指の腹で撫でて時々弾いた。 「あ……っ、きもち……ぃっ、ン……んっ」 「ほら、出すなら出せ。休む時間なくなるぞ?」 「はぁっ、あ……ンっ」  可愛い声で鳴いてよがる誠治は、まさしくネコだ。初めて抱いた日にリバだと判明していなければ、誠治のタチなんて想像もつかなかっただろうと思う。  あの日にリバ同士だとわかって本当によかった。 「んん……っ、あっ、も、もぅ……でます……っ」 「おう、出せ出せ」 「あっ、んんーーー……っ!!」  ピュピュッと白い液を飛ばし、くたっとなる誠治に俺は笑った。 「っとに弱いな、乳首」 「ん……、ゆ……きさん……」 「はいはい」  出したあとは必ずぎゅっと抱きつきたがる誠治。俺は自分のパジャマを脱ぎ捨て、誠治の身体を優しく腕の中に包み込んだ。  ぎゅうっと抱きつく誠治の耳や頬にキスをして甘やかしていると、「ん……ちゃんと……してください」とせがんでくる。 「はいはい」  最後に額に軽くキスを落とし、拗ねる誠治を楽しんでから唇に口づけた。 「……ん……っ、ふ……」  ほんと……ネコになるとなんでこんな可愛くなるんだ。  愛おしさで胸がいっぱいで、本当に幸せだと感じる。そんなことを考えてる自分が、照れくさくてマジで参る。  キスをしながら、ふと誠治の手が俺の胸元に触れ、ハッとした顔で唇の動きが止まった。  俺は、わざとリップ音を立てて唇を離す。  すると、「指輪は……」と誠治がつぶやき、少し悲しそうな表情を見せた。  結婚指輪が出来上がってから、誠治は指にはめ、俺は首から下げた。仕事上面倒になるからこれで許してくれ、と言うと「はい、わかってます」と誠治は微笑んだ。  首から外したことは一度もない。抱き合う時や眠る時、寝起きの時に、誠治はこの指輪をいじるのが日課だった。  俺は指輪をはめた左手を、誠治の目の前にそっと差し出す。  指輪が視界に入ると、誠治の瞳がわずかに見開かれた。 「ごめんな、遅くなって」 「……え?」 「やっとみんなに報告できたよ。結婚したって」 「……え?」  俺の言葉がすぐには理解できない様子で、誠治の瞳が揺れる。何が起こっているのかを頭の中で整理しようとしている姿が無性に可愛くて、俺の表情が自然と崩れた。 「ごめん。本当はすぐにでも指にはめたかったんだ。けどな? どうしてもみんなにサプライズ的に報告したくてさ。でも、なかなか切り出すチャンスがなくて。今日、やっと宣言できたよ。だから、もう今日から指輪はこっち。な?」  誠治の揺れる瞳に、じわっと涙がにじむ。 「そ……それなら……最初に教えてほしかったです……」 「いやぁ、お前にもちょっとサプライズ感をな?」 「……意地悪ですね」 「すまん。でも、俺が首にかけるって言ってもお前笑ってるからさ。実はちょっと寂しかったよ」 「……友樹さんを……困らせたくなかったんです」 「途中で気づいたよ。だってお前、毎日俺の指輪に触ってホッとした顔するしさ。それがまた可愛くてな?」  誠治の指が俺の指輪にそっと触れ、引き寄せてキスをした。 「……やっと、結婚した実感がわいてきました」  瞳を濡らして微笑む誠治に、俺は優しく口づけた。 「ほんとはもっと早くこうしたかったんだけどな。ほんとごめん、遅くなっちまって」 「でも……より感動が増しましたから、これはこれでよかったです」  ふふっと笑って、俺の首に腕を絡ませる。 「誠治はほんと優しいな」 「そうですか? でも、友樹さんにだけですよ」 「それは嬉しいな」  誠治の頬に指を滑らせながら、顔を近づけた。  軽く触れ合うキスをしながら二人で微笑み、自然と深いキスになっていく。 「愛してるよ、誠治」 「ん……っ、ゆ……きさん、愛してます……」    初めて結婚指輪をしっかりと身に着けた特別な日。  キスだけでも今までと何かが違う。  幸福感で胸がいっぱいになり、がらにもなく心が震えて感動で満たされ、言葉にできないほどの幸せが体中を駆けめぐった。   「誠治……抱くぞ?」 「ん……はい。……ぁ……ンっ……」    

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