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ー友情ー9

 本当に望は女性に間違われるほど、顔が綺麗だった。  長い睫毛にシュッとした輪郭、小顔に唇の形も美しく、何故だかリップを塗っていないのに輝いているようにも見える。 もしかしたら和也からしてみれば、色眼鏡で見えているのかもしれない。  そんな望に和也はボーッと見惚れていた。  和也の場合、そんな望に半年も前から気になり始めた人物でもある。  そんな望に意識した時だろうか、和也は鼓動が高鳴ってしまっているのかもしれない。 胸が高鳴るということは、完全に望に恋をしているという証拠だ。  今まで望のことを意識してなかったのか、わざと意識しないようにしていたのか、もう半分以上そのことについて忘れていたのかもしれないが、さっき桜井が言っていたことで、どうやら和也の中で再び望のことを意識してしまったようだ。  そう、今の和也というのは、完全に望のことをボーッと見てしまっているのだから。  その時、和也の耳に急に望の声が入ってきたようだ。 「はぁい!? アイツが俺のこと好きだとでも言うのか? 男に好きだって言われても困るんだよっ! ってか、俺もうアイツの担当医嫌だぜ」  未だに望はさっき桜井に言われたことを気にしているのか腹が立っているのであろうか、それが会話をしていても伝わってくる。 「と、とりあえずさ、そこは仕方ねぇだろ? ここの決まりみたいなもんなんだからさ」  そんな望に慌てたようにフォローする和也。 「え? あ、ああ……まぁ、確かに、そうなんだけどさ」  望は再び、そこでため息を漏らすのだ。 「なぁ、ここの病院が看護師と医者がコンビでいる訳覚えてるか?」 「ああ、まぁ、勿論。 そうそう! 俺はそのシステムに惹かれて、この病院にしたんだけど……あ! それと……あ、いや……」  そこまで言うと望は言葉を止めてしまう。 何か他にも理由がありそうだったのだが、それを口にしないように言葉を止めてしまったようだ。 「あ、いや……な、なんでもない。 まぁ、とりあえずそういう事だからさ」  そう誤魔化すように言う望だが、とりあえずそこは気にせずに和也は言葉を続ける。 「ま、まぁ……いいんだけどさ。 そうそう! こういう風に担当制だと自分の患者さんだって決まっていれば例え医療ミスがあったとしても自分の責任となる訳だ。 だから、医療ミスがない所が、ま、その……担当制の魅力って言うのかな?」  和也の方も話をしながらカウンター席から見える中庭を見つめ、ゆっくりと息を吐く。  望と居られるのは凄く嬉しいことなのだけど、こうやって会話しているだけでも和也は自分の気持ちを抑えられない時がある。 それは仕事以外で望のことを意識してしまった時だ。  だがやはり、そういうチャンスというのは今のところはないと言ったところであろうか。  だから息を吐いて自分の気持ちを抑えるのが精一杯の和也。 「よしっ! 今日も午後から頑張りますかっ! そういや、今日は午後からは回診だったっけな?」  そう望は独り言のような言葉を漏らした直後に、 「……ってか、また、アイツの病室に行かなきゃなんねぇのか?」  望は自分で気合いを入れたものの急に桜井のことを思い出したのか、そう憂鬱そうな声を上げるのだ。 「ま、まぁ……そこは仕方ねぇだろ? 行かなきゃなんないんだからさ。 な、ほら、行くぜ!」  和也はいつものように望の背中をポンっと叩くと、望に気合いを入れて上げる。 和也にしてみれば、唯一望にボディータッチができる瞬間だ。 仲がいいからこうボディータッチが出来ると言ってもいいのかもしれない。 「ああ、まぁ、そうだな……」

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