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ー友情ー50
しばらくの間、二人は点滴をしていたのだが、時間になると仕事を始める。
今日はやけに静かな夜だ。いつもの当直というのは救急車の音に救急内線の音も鳴りっぱなしの時が多いのに、今日はそれが全くない。確かに救急車が来ない日というのは平和でいい事ではあるのだが、こんなことは滅多なことではない。もしかしたら望がこの病院で働き始めてから初めてのことなのかもしれない。
「こんな静かな夜は珍しいよなぁ?」
「ああ……」
「多分、今日は緊急の患者さんは来ないような気がする。だからさ、桜井さんの所に行ってくればー」
「……え? でも、その……緊急の患者さんが来たら、その……あ、ヤ、ヤバイだろ?」
今和也が言っていた『桜井』という名前に動揺する望。そしてその言葉に和也のことをつい見つめてしまうのだ。
「大丈夫だって! 軽いもんなら俺がやっておくし……他にも医者はいんだろ?」
「いるんならいいんじゃねぇの? だって、その医師にも経験っていうのも積ませなきゃなんねぇだろ?」
「ま、そうなんだけどさ。 ま、ヤバイと思ったら呼べよ!」
あの新人医師が当直医だということに望は心配になったのだが、急に視線を宙に浮かせて何かを考える。
そんな望に和也は気付いたのか、にやにやとしながら、
「はいはい……分かってるから」
「本当にお前……変わったんだな」
「ん? あ、まぁね」
もう和也は望のことを完全に諦めたということだろう。だから今は逆に雄介と望の関係を祝っているようにも思える。現にこの会話中、和也はにこにことしていたのだから。
そう言われて和也は立ち上がって望の背中をポンっと押し、半分無理矢理雄介の所に行かせるように部屋から望のことを追い出すのだ。そう望はこう背中を押せばこういうことに関して少なくとも嫌ではないのだから素直に出て行くということだろう。いや完全に嫌だったら例え背中を押されても出て行くことはないのだから、やはり嫌ではないということだ。
和也は笑顔で望のことを送りだした後に椅子へと腰を下ろすのだ。
一方、追い出された望は腕を組みながら廊下を歩いている。
望は和也に雄介の所に行って来いとは言われたものの、どうやって雄介の病室の中へ入ろうか? と考えているであろう。
確かに半分無理やり和也に部屋を追い出されたものの、雄介の病室に入る理由が見つからない。
腕を組み首を傾げながら歩いていると、いつの間にか望は雄介の病室の前まで来てしまっていた。しかし無意識の行動というのは怖い。
そこで雄介の病室に入ろうか? 入らないか? と雄介の病室前で悩み足踏みをした後に、思い切って雄介の病室に入ろうとした瞬間、誰かに声をかけられる。
「先生? そこで何してるん?」
その一瞬ビクッとした望だったが、その声の主が一瞬にして分かった望は、
「あ、だから……その……えーと……」
そう言い淀ませながら視線を宙へと浮かばせる望。
だが次の瞬間に望は話を切り返し、
「……って、お前こそ何してんだよ? 今は夜中だぞ」
小さな声ではあるのだが、気持ち的に焦った声を上げるのだ。
そう望に声をかけて来たのは、この病室の主で今は望と恋人になった雄介だ。 まぁ、和也にも押されて来たのだから望の行き先は雄介の病室なのだが。
間も無く退院を控えている雄介はもうしっかりとした足取りで歩いていた。
「……へ? あ! 俺か? トイレやトイレ」
「そうだったのか」
「今日、望は当直なん?」
「ああ、まぁな……今はその……暇だったから、患者さんの様子を見回っていただけで」
視線を宙に浮かせてしまっているのだから、嘘を吐いているのはバレバレなのだが。 そこを雄介は全くもって気付いていないのか、それとも気付いてて望には何も言わないでいるのかは分からないのだが、そんな望に雄介は病室の中へと背中を押入れるのだ。
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