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ー天災ー28

 雄介は言いかけているのに再び頭を俯かせ、言葉を続けなかった。  そこに望は苛立ち始めたのか、 「はぁー、もういいって! 分かったからさ……。 どうせ、俺には言えないような事なんだろ?」 「……へ?」  望のその言葉に声を裏返して顔を上げる。 「だーかーらー! もう、言わなくていいって言ってんだよ……」  そう言ってくれる望なのだが、まだ何か怒っている感じはあった。  そりゃ当たり前だろう。 もう雄介が何か隠し事をしているのは明らかなのだから。 でもそれをなかなか言わない雄介に苛立つのは当たり前だ。  隠し事があるのにその隠し事を言わない。 それが夫婦や恋人の仲なら亀裂が入ってしまうのは当たり前の事だろう。 「……だけどな」 「……って言うけど、実際、俺には言えねぇ事なんだろ?」 「ああ……まぁ……」  そう雄介は曖昧な答え方をする。 「だから言わなくていいって言ってんだよ……」 「ああ……ぅん……」  望のその言葉に雄介は、また頭を俯けてしまう。  望にどうしてこう重要な事が言えないのであろうか。  そこは自分でも悩む所だ。  雄介はお腹が空いている筈なのに、未だ食事にもあまり手をつけていない。  そして再び二人の間に沈黙が流れるのだった。  今日は久しぶりに二人で楽しく食事会をするつもりだったのに、自分のせいで楽しくなる筈だった食事会を台無しにしてしまったような気がする。  その後二人はレストランを後にしたのだ。  だが、レストランを後にしても二人の間には会話がない状態が続く。  二人はとりあえず地下にある駐車場に向かっている。  望の方は仕事の帰りなのだから車で来ていたのだが、雄介の方は何も乗り物には乗って来てないのだから、雄介はとりあえず望と一緒に駐車場に向かうしかなかった。  望が前を歩き、その後ろを雄介が追う形になって歩いている。  地下の駐車場に来ても二人の足音は聞こえるものの、やはり何も会話もない状態だ。  望は完全に雄介に対し怒っている。  反対に雄介の方は未だに悩んでいるようだ。 顔を俯け腕を組んで歩いているのだから。

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