304 / 1476

ー天災ー125

 そう望は安心したかのように声を上げる。 そして雄介のことを本当は抱きしめ返そうとしたのだが、やっぱり望の性格上、そんなことができるはずもなかった。  昨日はあんな夢を見てしまったにもかかわらず、さっきは夢で恋人の雄介を亡くしてしまうという夢を見たはずなのに、現実の自分はまだそういうことを素直に受け入れることができないようだ。  望は息を吐き、雄介に抱きつかれたまま二段ベッドの天井を見上げる。 「……って、お前たち、何してたんだ?」  とさっき消えてしまった理由を聞いてみる望。 「何してたんやろな? 和也がな……望のことをからかってやりたい! とかって言い出したから、俺はそれに乗っただけやし……。 最初、和也が望に声をかけて来たろ? それで、望のことだから、感づいて、二回目に声をかけたら、絶対返事しないのを和也の方も分かってたみたいでな…… それで、そのまま隠れてようってことになってな、望が寝室から出て何処かに探しに行くまで、お風呂場に隠れておったってわけや」  こういういたずらっぽいことはやはり和也の方が一枚も二枚も上手だったのかもしれない。  とりあえず、いいや。 望の方もいたずらしようとしていたのだから。  それよりも今は雄介とこうやっていられる時間を無駄にはしてはいけない。 でも体の方は言うことを聞いてくれないらしく、頑張ってどうにかして望は雄介のことを抱きしめようとしても、本当に体の言うことを聞いてくれないらしく諦めていた。  どうしてこんなにも自分は雄介に対して素直になれないのだろうか。  そこに望は息を吐く。  しかし、雄介がそれに気づき、 「無理しなくてもええよ」 「……え?」  まるで望の心の中を見透かされたかのような言葉に、望は声を裏返す。 「とりあえず今はええよ……今は望が側にいるだけで、本当に十分やからなぁ」  その雄介の言葉に、望は言葉を返すことができなくなる。  そう、その雄介の言葉だけで、望にも雄介が自分の性格のことを理解してくれてるということが分かった。  望はその言葉で何か安心したのか? それとも、こうして体から力が抜けるような言葉に、望の方も、 「ねえ、キスしてくれねぇか?」  望はきっと今の雄介の言葉で何か勇気を貰ったのか、そう望は素直な気持ちを雄介に伝える。  その望の言葉に、雄介は驚くことなく、 「わかった……」  雄介は望の耳元で囁き、望の頬を両手で包み、そして優しく唇を重ねる。  今日のキスはいつもと違う感じがするのは気のせいなのでしょうか? そう、いつもより甘く、そしていつもより嬉しく感じるのだから。  自分から素直に伝えることはこんなにも気持ちがいいことなんだと、今更ながらに望は気付いたのかもしれない。 「ん……ありがとう……」  そう、不思議な感じだ。  今までの望は雄介にも素直な気持ちを伝えられなかったのに、今日はこうも簡単に素直な気持ちを雄介に伝えることができた。  さらに雄介は望の体を抱きしめる。  今、こうしている時間、本当に幸せな気分だ。  雄介の方も望と付き合い出してからもう随分と時が経っているのだから、雄介だって望の性格をそろそろ把握してきてもいい頃だろう。  今まではもう一回、「今の言葉を言って」と言うと、望にはそっぽを向かれてしまったのだが、今はもうそんなことは言わない。 そんなことをしたら望にそっぽを向かれるのはわかっているのだから、何も言わない方がいいのはもう分かっている。 だから今はもう望のことを抱きしめるだけに留めている雄介。  だが、今日の望は何かがこう吹っ切れたのか、雄介の体を抱きしめ返す。  こうやって自然に雄介のことを抱きしめ返せるのは、望にとって初めてのことかもしれない。  そして、今までの悩みが嘘だったかのように、二人はそのまま目を閉じるのだった。

ともだちにシェアしよう!