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ー天災ー127

 そして、望はふうーと軽く息を吐き、 「そうだな……」  と呟くように口にする。  その言葉に、雄介は微笑みながら望の手を取り、再び階段を上がっていく。  病院の屋上にはヘリポートがある。 ついこの間、雄介はここに降り立った場所だ。  そして、望が雄介のことを初めて叩いた場所でもある。  確かに、今ここでしか二人きりになれる時間というのはないのかもしれない。  屋上に出ると、今は梅雨の時期だというのに月明かりがあった。  梅雨の時期の貴重な晴れ間だということだろう。  しかし、屋上は月明かりだけで後は何も光がない。  地震が起きる前までは、十分過ぎる程にビルの灯りがあったが、今はそれもない。  とりあえず、ライフラインは復旧し始めているが、あの地震で建物が今は無くなってしまっているので、本当に夜というのは闇が広がる世界でしかない。  唯一頼れるのは本当に月明かりだけだ。  そして、望は雄介に連れられて屋上にある柵に寄りかかる。 「……で、話っていうのは?」  望が腕を組みながら雄介を見上げる。 「話っていうのはな……ま、さっき望が言ってた通りで……」  何故だか、雄介は視線を反らしながらそう言う。 「……?」  望が見上げた先に入って来た雄介の横顔。 暗闇でよくは見えていないが、気持ち赤くなっているようにも思えるのは気のせいであろうか? 「とりあえず、もうすぐ帰ることになったし……」 「だから、それだけなんだろ?」  本当にそれだけの理由でここに連れて来られたというのなら、若干イライラする。 「だったら……もういいじゃん! 戻ろうぜ……」  望は本当に戻ろうとしていたのか、歩みをドアの方へと向けていた。 「それに、俺はもう、そこは仕方ないって思ってるからさ……」  その時、ガシャンという鉄音が暗闇の中で響く。 それと同時に手首に痛みが走ったのか、望は痛みで顔を歪めていた。  次の瞬間、雄介の切ない表情というのか真剣な表情というのか、そんな表情が望の視線に飛び込んで来る。 「……望は……こう……寂しいとかって思わないん? 俺、向こうに帰ってまうんやで……」  再び手首に痛みを感じる望。 「ちょ、痛いって……っ!」  きっと、今の言葉で雄介の手に力が籠ったのであろう。 更に、雄介に押さえつけられている手が痛くなってきたようだ。

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