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ー天災ー152

 きっと望にとって、今の雄介からのキスというのは皆の前でされているから恥ずかしかったのかもしれないが、いつも以上に幸せそうだった。  唇から感触が消えた直後、望は目を開けると、雄介の姿はもう既になかった。  もう雄介はヘリコプターの中に乗ってしまったのだと気付く。  同時に、ヘリコプターのドアが閉まり、雄介を乗せたヘリコプターはプロペラ音を轟かせながらあの青空の向こうへ飛び立ってしまう。  望は手を振るわけでもなく、ただただ小さくなっていく雄介を見つめていた。  そしてまた雄介と会える日を信じて、今はそのヘリコプターを見つめるしかないであろう。  その雄介を乗せたヘリコプターが完全に去った後、望以外で屋上に残っている人物が二人いた。 いや、三人だ。  今は望の真隣にいる望の父親である裕二と、少し離れたところにいる和也と裕実の姿だ。  そして望は急に裕二に声を掛けられる。 「君は、ああいうタイプが好みなのかい?」  裕二が直球で尋ねてくる。  望からすれば、その話を家族にはして欲しくなかったのだが、雄介があんなことをしてきたのだから、当然、裕二にはバレバレだったということだろう。  流石の望も裕二にそんなことを聞かれても、実の父親にそんなことを言えるわけはない。 だが今は誰も望の側にはいないし、フォローしてくれる人も、この望のピンチを救ってくれる人もいない状態だ。  息子のことを一番に理解してくれていそうで、実際は理解していないのが望の父親かもしれない。  よくよく考えてみると、男同士で恋愛をしているのだから、それを聞いてくるのはおかしいことではないか?  とりあえず望は裕二の質問を無視して、足早に病院内の方に戻ろうとしたが、裕二に腕を掴まれ、行く手を阻まれた。

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