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ー空間ー148
雄介はそのアナウンスと同時に望に声を掛ける。
「な、なぁ、望……トイレに行かへんか?」
そう雄介は望に誘うのだが、それはもちろん下心があってのお誘いで、明らかに顔をにやつかせながら言っていた。 だから望はいつものように断る。
「そんなにやにやしてる時に……トイレなんかに行くかよ」
そうため息混じりに呟くように言うと、
「そんなニヤつきながら言ったら下心見え見えだっつーの!」
とまで付け足して言う望。 そして望は右手で雄介のことを席の方へと押し戻す。
「ええやんかー、こういうことできるのは今日とか明日までなんやからさ。 なぁ、望ってー」
「そんな甘えた声出したってダメなもんはダメなんだよっ!」
そう言うと望は雄介の声とかが入って来ないように、近くにあったヘッドフォンを耳にして聞こえないようにしてしまったようだ。
流石に望にそこまでやられてしまうと、もう雄介の方は望に手出しできないと思ったのか、雄介の方も仕方なく椅子へと体を預けてのんびりとし始めるのだ。
雄介はのんびりとしていたはずだったのだが、何だか周りが気になる気配がしたようで辺りをキョロキョロと見渡し始める。
今日は土曜日ということもあって客席の方も大分埋まっているという感じで、安定飛行になってからはみんなそれぞれの時間を過ごしているようだ。
その中で、雄介の座席から右後方で何やら手荷物を漁っている人たちが目に入る。
それを目撃した途端、どうやら雄介は何かを感じたようだ。
第六感でも働いたのであろうか?
雄介はいきなり望の手を取ると、後方にあるトイレへと向かう。
「……って、人がのんびりしてる時にいきなりなんだっていうんだ!?」
そう望からお叱りの声を受けていたのだが、今の雄介には、どうやらその望の言葉は耳には入っていないようで、何も話さずに望と一緒にトイレへと入り込む。
「ちょ、いい加減にしろよっ! なんだ? 俺がお前のことを無視するから我慢できなくなって俺の返事を待たずに俺のことをトイレへと連れ込んだ! って言うんじゃねぇんだろうな……?」
望はそう言いながら雄介のことを睨み上げる。
そんなことを言われるなんて雄介からしてみたら予想の範疇だったのであろう。 だが今の雄介はそんな所ではないようだ。 笑いながらも、
「ハハハー、まぁ、まぁ……そういうことやんな。 流石に望が隣におると我慢できなくなってもうて……あ、まぁ、それで望のことを連れて来てもうたって訳やんな」
とりあえず、まだ、あくまで雄介の第六感なだけで確信ではない。 何かを察して雄介は望のことをトイレへと連れて来ただけなのだから、今はとりあえず望の話に合わせるということしかできなかったということだ。
そうだ。 とりあえず、自分の勘が外れてくれていたら? たらでもいいとでも思っているのかもしれない。 あくまで今は本当に雄介の勘だけだからだ。 だから、そう簡単には望にも話ができないというところであろう。
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