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ー空間ー170
「え? まぁ……もうすぐ着陸できるし、逆にそこに座っておいて欲しいわぁ。 ほら、もう、あそこに光が見えてきてるやろ?」
雄介の方は望に背中の傷がバレないように、正面の方へと向かせ、自分の顔色もバレないように正面へと視線を向ける。
雄介の背中の傷はまだ治ったわけではない。 意識だけをどうにか保っているのが精一杯という事だ。 だが、望は医者であって雄介の恋人だ。 そんな事、望には絶対に悟られたくなかった。
そんな事を知ったら望の事だから、心配して「操縦するのは止めろ!」って言われるに決まっている。 今、雄介が操縦桿から手を離してしまったら、この飛行機は墜落してしまうのは分かっている事だ。 だから雄介はこんな状態でも、この操縦桿だけは離したくないと思っているのだろう。
「雄介……俺に誤魔化そうとしているみたいだけど、それは無駄だよ。 だけど、今はこの飛行機を無事に地上へ下ろせるのは多分、雄介しかいないと思う。 だから、乗客の命はお前に預けるからさ……どうにかして、この飛行機を無事に地上へと下ろしてくれないかな? 俺が言いたいのはそこまでだ。 俺が操縦桿を握ってもいいんだけど……やっぱり、そこは雄介の方ができるっていうのか、任せられるっていうのか……俺にはそういう救助の精神力はないが、雄介にはそういう精神力がありそうだからな。 背中の傷は後で手当てするからさ」
望はそう言うと、副操縦席に座り、正面を向いたまま雄介に話すのだ。
雄介は大きなため息を吐くと、
「なんや……怪我の事気付いておったんかいな。 とりあえず、今は俺にしかできない事やと思うし。 望に治療してもらうんは地上に降りてからって事やんな」
「ああ……」
望はそう言うと、副操縦席の背中へと寄り掛かるのだ。
雄介は怪我をしたものの、望との約束通りに死なずにいてくれたのだから、そこは良しとしようと思ったのだろう。 だが、まだ、この事件については終わってはいない。
後は、雄介が無事この飛行機を地上へと下ろしてくれることだ。
望がこの操縦室に入って一番に雄介の事を見たのだから、雄介の怪我の具合は何となくだが分かっていた。 もし雄介が無事この飛行機を地上へと下ろすことができたなら、すぐにでも救急車を呼んで病院へと向かい、輸血と背中の怪我を縫わなければ雄介の命も本当に危ない状況であるのも分かっていたようだ。
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