616 / 1095

ー雪山ー45

「俺の方は嬉しいねんけど、せっかく来てくれたのに、あんな態度はないやろうが……」  二人はキッチンに立ちながら、雄介はそう口にする。  間違っていることは正す。 これも親しいからこそ言えることなのかもしれない。 「お前だって、昨日はそうだっただろ?」  子供の喧嘩のように、望もそう返してきた。  望は雄介から渡された皿を拭いて、食器棚へしまっていく。 「……ぁ」  雄介は痛いところを突かれ、言葉に詰まる。 「だろ? お前だって人のこと言えねぇじゃねぇか……」  そう言われてしまえば、確かにその通りだ。  痛いところを突かれた雄介は、顔を上げられないようだ。 「それよか……!」 「……なんだよ」  何かを思い出したのか、雄介は大きな声を出して、今まで言葉に詰まっていたのが嘘のようにニコニコした表情になると、 「な、なんだよ……その顔は?」  今度は望が言葉に詰まる番となったようだ。  そして見上げた先にいる雄介の表情に、望は顔を赤く染めてしまった。 「なぁ、望ー」  いつも以上に甘い高い声で呼ぶ雄介に、望は急に気持ち悪さを感じたのかもしれない。 「さっき言ってたことってホンマのホンマか!?」  その言葉に、望はさらに顔を真っ赤にして俯く。  ニコニコした雄介の表情から、望には雄介が何を言いたいのか分かってしまったようだ。 それが見事に的中してしまったらしい。  雄介がああいう顔をする時は、大抵、恋人関係の話をする時だ。  きっと望の心の中では「思い出さなければよかったのに」と思っているのだろう。 「なぁー」 「うるさい……今は黙って皿を洗え!」  誤魔化すように叫ぶ望。  雄介は言われるままに、望に最後の一枚になった皿を渡す。  だが、その話で動揺していた望は、雄介から皿を渡される際に手を滑らせてしまい、皿を床に落としてしまった。

ともだちにシェアしよう!