636 / 1095

ー雪山ー65

 雄介にそんなことを言われても、望には記憶のないことだ。 「とりあえずな……俺が起きた時にはお前が俺のパンツ握っておったし、望のこと起こさないようにするためには脱ぐしかなかったんやからな」  その雄介の言葉に顔を赤くする望。 「あ、あのさぁ、とりあえず、そこってスーパーなんじゃねぇのか? そんな公共の場でそんなことよく言えるよな?」  雄介は望にそこを指摘されて気付く。正確には、忘れていたということなのかもしれない。 「あのさ、家の中でそう言うんだったら、いいんだけどさ、そこ、外だろ?」 「あ、まぁ、そやな……? と、とりあえず、買い物してから帰るし、待っておって!」  そう言うと、雄介は慌てて電話を切り、会計を済ませて再びバイクに跨って望の家へと帰る。  さっきまでオレンジ色だった空が、今ではグラデーションを作っていた。  雄介はバイクを庭に置くと、買い物袋を二つほど持って部屋へ入る。  荷物は一旦冷蔵庫に詰めるだけ詰め、もう起きているであろう望の部屋へと向かう。  望の部屋へ通じるドアを開けると、 「大丈夫か?」  そう雄介は望へ声を掛ける。 「多分……平気だ……」  そう望は返すが、その言葉はあまり当てにならない。望の場合、だるくても「大丈夫」と答えてしまうのだから。  雄介は望がいるベッドの端へ腰を下ろし、望のことを笑顔で見上げる。  その雄介の視線に望は気付いたのだろう。望はいつものように顔を赤くし、 「なんだよ」  そう返すのだった。 「元気になったんかなーって思うてな」  雄介は外から帰ってきた冷たい手で望の額に手を当てる。 「ん……」  冷たい手が額に当てられると、それだけでもビクついてしまう望。 「まだ、熱いみたいやな」  雄介はそう言って立ち上がり、 「もうしばらくだけ待っておいて、今、飯の方作ってくるし、薬も飲まないとアカンねんやろうしな。それと、足の包帯もかな?」

ともだちにシェアしよう!