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ー波乱ー58

 何故かその男性は負けた筈なのに口端を上げてクスクスとしていた。 「だからさっき、裕実は体が熱いと……!?」 「仕事中、君にその子を助ける事は出来るのかな?」  その男性が言いたい事が和也にも分かったのであろう。 そうだ確かに今日の和也は恋人を庇ってる暇は無い。 確かに望と一緒に手術という仕事があるからだ。  仕事か裕実か。 というのを天秤にかけなきゃいけない和也。 だけど今のこの状況でこの二つを天秤にかけるなんて事は出来ない。  和也は裕実の体をギュッと抱き締める。 「か、和也さん……僕なんかより……はぁ……患者さんの方を……」  裕実はこの苦しい中でも和也に何か伝えようとしているのだが、和也はその裕実の言葉を遮るように、 「……うん……分かってる! 仕事は仕事でプライベートはプライベートなんだからな……。 患者さんの方を優先にするに決まってるじゃないか……大丈夫だ裕実……心配すんじゃねぇよ」  和也は裕実のその言葉に対し微笑むと更に裕実の体を抱き締める。  何となくではあるのだが和也は媚薬の効果は知っている。 今、裕実がどれだけ苦しいか? という事さえも分かっているようだ。 だから今和也は裕実の事を助けたいという気持ちはあるのだが、そんな場合ではない。 「ま、いいぜ……とりあえず、和也行こうか? 後は俺達で話し合った方がいいだろ?」  と望は和也にそういう風に言うと、 「ああ……」  そう返事をし、とりあえずこの病室から出て行く。  一応ドアを閉める前に一礼をしドアを閉めると、そこには腕を組んで雄介も待っていた。  望はそんな雄介の存在に安心すると、 「お前、いつからここにいたんだ?」 「望がここの病室に入ってからや……」 「なら、話は分かってるよな?」 「ああ、まぁ、一応はな……」 「とりあえず、今は時間が無いからさ……雄介の病室で少し話してから行くぞ!」 「ああ、分かってる……」  その望一言で望と雄介と和也は雄介の病室へと向かうのだ。  雄介の病室へと入ると薬を飲まされた裕実はベッドの上へと寝かせ、 「とりあえず、これからの手術は力が劣っても、お前抜きで、誰かに入ってもらうしさ……だから、お前は裕実の面倒見ててくれてもいいんだぜ……」

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