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ー海上ー106

「裕実……お前さぁ、何も考えずに俺の体抱き締めただろ?」 「……へ? どういう事です?」 「俺等は今まで海の中に居たんだぞー、服がビショビショだったのに俺なんかを抱き締めたら?」 「……僕の方も濡れちゃいますよね?」  そう裕実の方は和也の言葉の通りに答えるのだが、それと同時に自分の服を見たのか、上着からズボンの方まで和也に密着した服の部分が全部濡れてしまっていたらしい。 「どうしましょう? 来る時には車で、しかも、院長と来たんですよね。」  その裕実の言葉に和也と裕実は急に顔を青ざめる。  帰りはもちろん裕二の車で帰るのは当たり前で、和也達からしてみたら裕二の存在は病院の院長であっておまけに裕二の車は高級車でもある。 そんな車の中を濡らす訳にはいかないだろう。  かと言ってこの状況では電車で帰る訳には行かない状況でもある。  その会話を聞いていた望は、 「気にすんな……俺の親父に気を使う事なんかねーよ」 「そんな事言うけどさぁ、望と俺達の立場では違うんだぞー」 「んー、なんつーかな? 親父の性格って言うのかな? 親父はそういう事気にしねーからな……っていうのか、院長であって院長ではないっていうのか……前にチラッて聞いた事あんだけどさ、院長だから上の人間だって思われたくねぇっていうような事言ってたしな。 だから、ウチの親父はずっと院長席に座っているような事はしないで、診察とか手術とかしてた方がいいちも言ってたしな……だから、病院に不在の時にはアメリカで勉強してたって言ってただろ?」  望がフッと気付くと裕二は望の後ろに立っていて、しかも望の肩へと手を置いていた。  普段の望なら裕二にこんな事をされたら、その手を振り解き抵抗していたのだろうが、今日の望はそれをしないようだ。 「望の言う通りだよ。 私は上司と部下という人間関係の壁みたいなのは作りたくはないんだ……そこは医療っていう世界だからね。 チームワークが大事だって思っているから、そのチームワークを壊したくはないっていうのかな? 上下関係に壁みたいなのがあったなら何かあった時に下の人間は上の人間に色々な意見が言い辛いだろ? それで、患者さんの方にも何かあった時にはって思うと……私からしてみるとそういう壁っていうのは好きじゃないんだよね。 だから、そういう上下関係の壁みたいなのは排除して働いているみんながいい環境の中で医者として成長していってくれたならいいと思うしね……だから、言いたい事があるんだったら私のメールの方に何か連絡してくれって言ってるだろ?」  裕二が言いたい事が和也達にも理解出来たのか、和也達は裕二に向かって笑顔を向ける。

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