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ー天使ー141

 二人の間に沈黙が流れる中、雄介は意を決したように顔を上げた。 「やっぱ、アカンよなぁ? 俺がしっかりしなぁー、アカンやんか……」  そう雄介は独り言を漏らすと、ソファに座っている望の手を取り、いつもの笑顔で言った。 「一緒に風呂、入ろ!」  いつもと変わらない雄介の様子に気付いた望も、少しためらいながらも答える。 「ああ、そうだな……」  そう言い、望は立ち上がると二階へ上がり、着替えを取りに向かった。  二人同時に脱衣場へ入ると、雄介はいつもと変わらず堂々と望の前で服を脱いだ。 「先に入ってるでー」  そう言い、先にお風呂場へと向かっていく。  望はそんな雄介に安堵のため息を漏らすと、自分も一気に服を脱ぎ、雄介が待つお風呂場へと向かった。 「ホンマ、望と二人きりで入るの久しぶりやんなぁ」  雄介は浴槽の縁に手をかけ、一人先に体を洗っている望を見上げた。 「まぁな」  そんな素っ気ない望の言葉に微笑む雄介。  いつもと変わらない二人。  だからこそ、雄介は久しぶりに幸せな時間を過ごしているようだった。  それに、心配の元であった美里の手術も無事に終わり、後は退院を待つだけなのだから、幸せを感じないわけがない。 「な、望……」  雄介は声をかけながら体を反転させ、浴槽に背中を預け天井を見上げると続けた。 「俺の姉貴……確かに琉斗の運動会の時には一時退院は出来るみたいやけど、本格的な退院はいつになるんや?」 「あー、そうだな……とりあえず、琉斗の運動会の日には手術から一週間以上経ってるから、そっから様子を見て、早ければ一週間後……遅くても二週間以内には退院出来るぜ」 「そっか……ほなら、良かったわぁ。それからは、また俺達も二人きりなんやな」 「まぁ……そういうことになるな。でも、雄介……」  体を洗い終えた望は浴槽へ浸かると、少し間を置いてから言葉を続けた。 「本当にお前……医者になる気あるのか?」 「あったりまえやんか! 今はマジに本気やって。姉貴に言われた通り、俺は父親の影響で『消防士になりたい』と思っておった。だけど、本心では本気でなりたかったのか? と言われると違ったのかもしれへん。ほんで、和也がさっき言っておったやろ? 一度きりの人生なんやから、自分がやりたいことをやった方がええって……」

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