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ー希望ー31

 望も腹筋をこなしていくのだが、やはり普段やっていないだけあって、腕立てと同じくゆっくりとしたスピードで目標である十回をこなすのだ。 「望は無理せん方がええよ。もう直ぐ終わるし、先に横になっててな……」 「ああ、そうだな」  望はそう答えると、疲れた体をシーツの波へと預ける。そして一つ息を吐き、天井を見上げる。  今日は色々なことがあった一日だった。  朝は雄介の初白衣姿に顔を赤くし、仕事中は雄介のことばかり気にしていて大変だったことを思い出す。  確かに、いつの頃からか望は雄介と一緒に仕事をするのが夢だったのだが、思った以上に大変だったようだ。  仕事場では望は上の立場だが、プライベートでは下の立場である。  望がふっと気付くと、ベッドのスプリングが体重の重みで下がるのが分かった。  きっと雄介がストレッチ等々を終わらせてベッドへと上がってきたのであろう。  雄介は望の左横へと横になる。 「ほな、おやすみな……」 「ああ……」  とは言ったものの、今日は何か足りないような気がするのは気のせいであろうか。  雄介が電気を消したのか、辺りはもう暗い。  望が住んでいる場所は東京は東京でも住宅街で、繁華街に比べたら、普通に電気を消してしまえば隣に寝ている人物の顔さえ見えるか見えないかの暗さだ。  どうにか月明かりで雄介の顔は見えるのだが、もう雄介は目を瞑ってしまっている。  望はまだ目が冴えてしまっているのか、何を思ったのか、雄介の右手首を掴み、手を握るのだ。  雄介の手は望より少し大きい。  確かに望の手は、大人の男性なら普通くらいの大きさではあるが、雄介は標準よりも背が高めである。  雄介の手を握ると、望はその手に温もりを感じた。雄介は消防士時代から、この温かい手でどれだけの人を助けてきたのであろうか。  いや、雄介はこれからも、この大きな温かい手で、何十人、何百人と助けていくのであろう。  望は雄介の手を握ったまま、今日はいつもより早めに瞳を閉じるのだ。

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