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囚愛Ⅲ《エリックside》7
私と同じように、雅様は驚いた表情で私を見つめた。
「雅様…私は最低な人間です。一夜だけの過ちを犯したいと願ってしまう」
あなたに恋人がいると知りながら、この状況に興奮している自分がいる。
なんて最低なのだろうか。
「エリックはアルベルトと結婚するんじゃないの?」
「…アルのプロポーズは断りました」
「でもさっき、いつかアルベルトと結婚できたらって…」
あなた以上に愛せる人が見つからない。
アルと結婚して、あなたを忘れてしまえばいいのに。
それなのにあなたを忘れたくない、という気持ちが強すぎて―…
「脳はアルと結婚しろと理解しているのに、心は全く理解してくれない。雅様を想えと言われているかのようにズキズキするのです」
「俺を…?でもアメリカに来て今幸せって言ってた…」
「3年間あなたのいない生活がどれほど苦痛だったか…私が幸せと言ったのは、たった1ヶ月の間だけでも雅様が目の前にいる今が幸せだという意味です」
自分から離れておいて何を話しているのか。
雅様は私の腕を振り払ってベッドへと上がり、私を見下ろして言う。
「…俺を愛してるのエリック?」
あなたが愛しくて愛しくて。
だからこそ苦しくて。
「はい…愛しています」
自分の気持ちに気付いてから今もずっと。
雅様を愛さなかった日は無い。
私の顔に冷たい刺激が走る。
―…涙?
「雅様…泣いているのですか?」
「ごめん…俺はてっきり、エリックに嫌われたのかと…急にいなくなるほど俺のことを嫌になったのかって…この3年ずっと思ってたから」
「あぁ、雅様…泣かないで。ごめんなさい…あなたを不安にさせて。嫌いになるわけない。愛しくてたまらないのに」
私が言葉を続ける度、雅様の涙は溢れてくる。
「だからこうしてまた会えただけでよかった。例えアルベルトと結婚しても、エリックが幸せならそれでいいと思った」
こんなにも長年、私のことを想ってくれて…
そして今、雅様は大切な人を見つけたというのに私が心を乱してしまっている…
「ごめんなさい。雅様も私を忘れて、この左手の指輪の相手と幸せになろうとしているのに…」
私がそう言って雅様の指に自分の指を絡めると、雅様は指輪を外してそれを私へと渡した。
「指輪の刻印、見てみて」
指輪の内側に刻まれている刻印を確認する。
―Eric Brown―
「私の名前…」
「エリックにプロポーズしようと決めて、お互いの名前が刻まれた婚約指輪を作っていたんだけど、まさかいなくなるなんて思ってなかったから…今でもずっとエリックを愛している」
あぁ、雅様―…
「今…私の顔を見ないでください」
「?」
「嬉しくて泣きそうです…」
再会してからずっと考えないようにしていた。
あなたの左手の薬指に光る指輪を見てからずっと、私の心の奥底では嫉妬が渦巻いて。
これでいいはずなのに、でも胸が苦しくて。
「嫉妬したの?俺の架空の恋人に?」
「はい。とても。私以外を愛してしまったのかと…」
私のことは忘れて欲しいと思っていた。
私以外を愛して欲しいと思っていた。
愛した誰かと幸せになって欲しいと思っていた。
思えば思う以上に苦しさも増して。
そう考えれば考えるほど、今のこの状況が幸せでたまらない。
「ねぇ…俺このままだと理性が飛んでエリックのことめちゃくちゃにしそうなんだけど。部屋に戻ったほうがいい?」
そう言って雅様は軽くキスをして問う。
私は恥ずかしさと嬉しさが入り交じって、ドイツ語で回答をした。
「“お酒のせいにして、私を抱いてください”」
「“ドイツ語分からないから、もっとゆっくり”」
「“お酒の…せいにして…私を…”」
「“難しくて何て言ってるか分からない”」
「“…愛しています。抱いてください”」
ストレートに私がドイツ語でそう言うと、雅様は微笑み、そして私に深いキスをした。
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