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第16話 呼ばれたのは、最近です

「僕がお兄さんから聞いていたこと、それとハルさんと同じタイプの人間で理解があるから、だからハルさんに会ってほしいようでした。そう言い残してお兄さんは息を引き取りました」 タカはハルの兄が "弟と合うと思うんだよ" と言ったことは言わないでいた。 「これが、お兄さんが亡くなる前に起こったことです」 「……」 「……」 しばらく沈黙が続いた。 「タカさんは兄が死んでから、ずっと今まで僕を探してくれていたんですか」 「……いえ。ちょっと……僕は動けなくなってしまって」 「あ、そう……ですよね」 タカは、ハルの兄が死んだことでそれまで心の中で優しく大切に包んでいたものが消えてしまったのを思い出していた。 「本当にすみません。お兄さんに頼まれたこと僕はすぐに行動できませんでした。でもハルさんにお会いしたい気持ちはずっとありました。僕が弱くて、動けない状態が続いてしまって。って、ものすごい言い訳ですね」 「え、あ、いえ……ほんとそれは気にしないでください」 「それからもう何年も経ってしまって。僕はいま31だから、8年くらいでしょうか。だいぶ年月が経ってしまいましたね」 「あの、タカさん……その間、辛かったんじゃないですか」 タカは何も答えなかった。 「お兄さんが僕を呼んだのは最近。そのことをお話ししますね」 「あ、はい」 「最初は夢でした。その次の日には歩いているとき。目の奥の方っていうんですかね、お兄さんが視えるんです」 「目の奥……」 「たぶんハルさんならなんとなくイメージできるんじゃないでしょうか。目の奥です。物理的に説明できない場所っていうか」 「……」 「お兄さんが高校生の頃に僕と一緒にいた光景、大学生の頃に僕にハルさんのことを話した光景、それから……死ぬ直前のあの光景、その3つが毎日視えるんです。どれもハルさんに関係することばかり。それと……」 「……」 「これはぼんやりしか視えなかったんですが、すごく暗くて煙がかかっている男性が視えました。悲痛に満ちた表情というか、絶望感に浸っているかのような」 ハルは、その男性が自分のことだと察した。 「なんで急にそれが視えたんでしょうか」 「これは僕の意見ですけど、お兄さんはハルさんを止めたかったんじゃないですかね」 「え……」 「お兄さんは人の気持ちを考える人で、無理強いはしません。たとえ僕がお兄さんの頼まれたことを実行しなくてもきっと許してくれたと思います。それなのに僕にあの光景を何度も何度も見せてきた。だから急ぎだったのかなって。僕はそう理解しました」 「……」 「さっき言った男性は、おそらくハルさん。僕はお兄さんから今すぐ会いに行ってくれと言われているような気分になりました。だから"お兄さんに呼ばれた"って言いました。その理解で……間違っていないと思います」 「……」 「ハルさん、質問なんですけど」 タカがハルの顔をじっと見つめて問いかけた。

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