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第28話 タカとサエの再会1

タカとサエが電話をしてから2週間が経ったときのこと。 タカのスマホに、サエからメールが届いた。 久しぶりにお茶しない?メールにはそう書かれていた。 その1週間後、2人はカフェで再会した。 「私から誘ったのに、うちの近くまで来てもらっちゃってごめん」 「いや全然」 「会うの何ヶ月ぶりかな」 「1年は……経ってないよね?」 「うん」 「元気そうでよかった」 「うん」 「お菓子、作ってる?」 「うん、たまにだけど作ってるよ。ねぇ、なんでいつもそれ聞くの?」 クスクスっと笑うサエ。 「なんとなく。サエちゃんにはなんかずっと作っててほしいんだよね」 「昔は毎週ってくらいケーキとかお菓子作ってたけど、今は作っても食べてくれる人がいないし、ほんとたまにだけど」 「……」 「あ、ごめん。しんみりすること言っちゃった」 「あ、いや。俺らが会うとそういう話になるのは仕方ないよ」 「うん」 「今日は、ハルさんのことだよね」 「あ、うん。ヒロの弟さんのこと。電話でも聞いたけど、ハルセ君とのこともっと詳しく聞きたいなって」 「この前サエちゃんに電話した後ちょっと考えてさ。俺は話したほうがいいと思って話したんだけど、やっぱりつらかった?話したほうがいいって思うこと自体、俺の自己中だったかもと思って」 「大丈夫。ヒロの彼女だから話すべきだって思ってくれたんでしょ?そこに対して自己中だなんて思うわけないよ。それに今日誘ったのは私だし。もっとハルセ君のこと知りたいなって今は思ってるんだよ」 「……わかった」 「勝手にハル君って呼んでいいかな、私」 ふふっと笑うサエ。 「うん、いいと思うよ」 タカは、改めてハルと初めて会った時のことを詳しくサエに話した。 サエは、コーヒーカップを両手で掴んだまま俯き加減に相槌をうち続けた。 ときより笑顔を見せながら聞くので、タカは安心して話し続けた。 「そうだったんだね……」 「うん。電話では言ってなかったけど、その後にね、ハルさんを車に乗せて帰ってきたんだよね」 「ええ!なにその展開。急すぎるんだけど」 サエが顔を上げ、驚いた表情で笑う。 そんなサエにつられて、タカも笑う。 「そうだよね。ハルさんもびっくりしてた。けど乗ってくれたよ。内心俺の運転にドキドキしてたと思うけど」 「ほんとすごいよその展開。なんでそうなるの」 「なんか、乗せて帰りたくなったんだよ」 どういうこと、と言ってまたサエが笑う。 そんなサエを見て、タカもまた笑う。 「いや、なんていうか。タカ君のそういうとこ全然変わらないね。面白いなほんと」 「そうかな、あはは。サエちゃんはさ、だんだんとだけど笑顔戻ってきてるよね」 「うん、そうだよ。だってもう8年だよ。笑いで免疫力アップだよ」 「なにそれ」 タカが吹き出して笑う。 「ヒロがいなくなってさ、私いろんなこと知ったんだよね。この話はタカ君にしてなかったよね」 「何、どんなこと?」 「いなくなってから大切さにより一層気づいたとか、そういう話じゃなくて。悲しいって気持ちが、どんなものか身を持って経験しちゃった。キツイね」 「どんなだった?」 「うん。悲しい感情ってさ、本当に時間差でやってくるんだなーって。しかも何回も。乗り越えた!と思ったら乗り越えたくない自分もいてね。厄介だった。……ちょっと変な例えを言っていい?」 「うん、話したいように話してみて」 「なんかね。私の中にはいつも "悲しい" って書かれたドアがあってね。そのドアって普段は閉まってるんだけど、ちょっとしたタイミングで開くんだよね。それで開いてるな~って気づいたらさ、やめれば良いのに、あえてそのドアを開ける自分がいたんだよね」 「うん」 「悲しいドアなんだから開けたら当然辛いんだよ。でもね、そのドアの先にはヒロとの思い出があって。悲しい感情の中にヒロを感じるんだよね。それを求めているから自分で開けちゃうんだよね」 サエは悲しい表情でふふっと笑った。 「うん。わかるよ、言いたいこと」 「そういうのを何度も経験してさ。悲しい感情って、大変。だって、乗り越えなきゃって思う自分と、あえて浸りたい自分がいるんだもん。絶対に開けられない鍵みたいなのが欲しかったよ。……って、表現下手でごめん。わかりにくいよね」 「ううん、大丈夫。続けて」 「ありがと。悲しいドアに鍵をかけたかったんだけどね、でもそれは逆に辛くなる気がしたんだよね。ドアの先にはヒロがいるんだもん。鍵かけたらヒロを消しちゃうような気がして」 「うん」 「だからね、無理に鍵かけないで、逆にいろんなドアを増やしちゃえ!って思ったんだよね。単純な考えなんだけど」 「へえ、例えばどんな?」 「いろいろだよ」 ニコっと笑うサエ。 「楽しい、違う悲しい、嬉しい、腹立たしい、楽しい。あ、楽しい2回言ったね」 「あははっ。言った。でも楽しいドアはいっぱいあってもいいね」 「うん。いろんな感情を大切にするようにしてる。たまにヒロのこと思い出すけど、私の人生はそこだけじゃないって思えるようになってきて」 「……そっか」 タカの表情が一瞬曇った。 「それにね、前回タカ君に会ってから、私もっと外に出るようになったんだよ」 「そうなんだ。人にも会ってる?」 「会ってるよ。すごく会ってる」 「そっか。サエちゃん、だんだん笑顔増えてきてるから、会うたびに俺も安心するよ」 「あははっ、なんかごめんね。タカ君だって辛かったのにね。なんだか親みたいに気にかけてくれてさ」 「いや、俺は悲しいとかそういうの、慣れてるから」 ニコっと笑うタカ。 「そっか」 「ヒロも安心してるんじゃないかな」 「そうかな。そうだと嬉しい。ヒロがいなくなってから私ヤバすぎたもんね」 「全員だよ」 「……」 「あのときは、俺もサエちゃんも、ヒロのお父さんも、みんなボロボロでひどかったから」 「うん。私タカ君にも申し訳ないことし……」 「いいんだよ、気にしないで。サエちゃんの気持ち分かるから」 タカが言葉を遮った。 「あ……うん」 「もう俺に謝らなくていいから。人は簡単に壊れるんだからさ」 「……あ、うん。ありがとう」  少しの沈黙が続いた。

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