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最終話 最高の彼氏
「ゆうたー、風呂ありがと」
先にシャワーを浴びて、シャク、シャクと音を立てて棒アイスを食べている憂太に声をかける。
「ふぁーい」
憂太が眠たそうな間抜けた声で返事をして、持っていたアイスを俺の方へ向けた。
「ん。あんがとー。風呂上がりのアイスはやっぱうめぇー」
憂太の手からアイスを一口もらった。
「ふぁあ。もうこんな時間になってる」
「やば、そりゃあ眠いはずだわ」
時計は随分前に0時を回っていた。
「湊、軽く片付けてもう寝よ」
「ん、そだな」
あくびをしながら、机の上に置いてあるから揚げの残りや空になった缶を手早く片付ける。
「湊、ベッドで寝るでしょ?」
一緒に眠るのが当たり前とでも言いたそうな憂太が先にベッドに入っている。
こんな、恋人であれば当たり前の行動に俺はまだ慣れない。
憂太と出会ったのは約1年前である大学3年生になってすぐの春だった。
その当時の俺は、恋愛経験が無いことを周囲の友達たちには隠していた。
もちろん、同じ研究室のメンバーになった憂太にもだ。
そんな憂太に彼女ができたときの練習と称して始まった擬似的な恋人関係。
興味本位だったのか、なんなのか、どうしてそんな突拍子もない提案をしたのか、その時の動機は思い出せない。
関係を続けていくうちに、憂太の相手の気持ちを大切にできる優しいところも、実はいたずらが好きでからかってくるところも、全部独り占めしたくなった。
正直、恋人になった今も笑った顔も、泣いている顔も、照れた顔も、いじわるな顔も全部、俺だけに見せていたら良いのにと思ってしまう。
いつしか憂太を大切にしたい、独り占めしたいと思う以上に「触れたい」とか「触れて欲しい」とまで感じるようになっていた。
その一方で、嫌われたくないとか、振られたらどうしようとか、不安もそれなりに感じていたと思う。
こんな誰かのことを考えて一喜一憂する経験は初めてだった。
それでも、憂太の色んな側面を知るたびに、俺もどれだけかっこ悪くても肩肘張らずにありのままの自分で過ごしたいと思えるようになった。
「(憂太と出会って、俺も成長したなあ)」
眠たいくせにベッドの上から話しかけてくる憂太を見て,しみじみと思う。
「ね、湊。聞いてる?」
1人で先に布団に入った憂太は片手で掛け布団を持ち上げて、俺の入るスペースをあけている。
「おーい?彼女はこういうときどうするんだっけ?」
布団を叩きながら俺を彼女扱いしてくる。
「憂太、あのなあー」
俺をからかう憂太は機嫌が良さそうだ。
「彼女はなあー、こうするんだよっ!」
素直に布団に入らずに、憂太の上からドシっと乗っかった。
「うわあ、あはは。動けない!重い、重い!」
身動きできない憂太は布団の中で足をバタバタさせている。
「憂太…」
「んー?なに?」
「好きだ」
「ふふっ。僕も、湊が好きだよ」
大学3年生の冬。
彼女が欲しくて大学デビューして3年が経った俺にできたのは、憂太という最高の彼氏だった。
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