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【番外編】 本能的に…/憂太の彼氏力が高かった理由④

それから憂太は仕返しという体の惚気話を俺本人にして、気が済んだのか話を本題に戻した。 「まぁ、ほんとのところはさ。高校はだめだったけど、大学に入ったら愚痴とか悩みとか言えるぐらい信頼できる友達を作りたいと思ってたんだよね。彼女なんかじゃなくて」 「え?あ、うん…」 憂太の口から高校という単語が出ると、過去を思い出して辛くないかと緊張する。 それなのに、何食わぬ顔で憂太はハンバーグと一緒に頼んでいたフライドポテトを食べながら話し続けようとしているからホッとした。 「それで、湊と友達になれて、泊まってゲームしたり、研究室の買い出し行ったり、食堂でご飯食べたりするのが、本当に楽しくてさ。この状態が続けば良いのにって思ってたら、いつの間にか好きになっちゃってたんだよね。自分でもびっくり」 「自分で驚くなよ」 憂太が困ったような笑顔を浮かべて楽しそうに話すから、俺もつられて自然と表情が緩む。 「だって、湊は元々女の子が恋愛対象だったわけでしょ?」 「え、うん」 「だから、どのくらいまで近づいて大丈夫か分かんないじゃん。キスも出来心で、恋人ごっこもなかったことになるのなら、それはそれで湊の友達としてずっとそばに居ようって思ってさ」 当時は俺ばかり感情を振り回されているのかと思っていたから、憂太の葛藤を聞けるなんて新鮮な気持ちになる。 眼鏡をかけて、目元まで伸ばしたモサモサヘアーをした当時の憂太がそんなこと考えていたのかと思うと、心がくすぐったくなって笑ってしまう。 「っふふ。俺にはいっつも余裕そうに見えてるけど」 「落ち着けって心の中で何回も唱えてたもん。だって湊との恋人ごっこ、湊と本当に恋人になれたら、こんな感じなのかなとか思うと楽しくてさ。ごめんね、湊の善意を利用したみたいで」 少し申し訳なさそうに苦笑いする憂太を見ると、胸がチクッとした。 俺も憂太と同じで、このまま本物の恋人になれないかな…と思って止めようとしなかったからだ。 俺もずるい考えを持っていたって説明しようと思った。 「おっ、おれは…別に良かった!」 口から出た言葉は自分でもよく分からないものだった。 案の定、憂太も分かっていなさそうな顔をしている。 「俺は!憂太に最初、とんでもない提案したと思って、すっごい恥ずかしくなってたんだよ。だから、あの夜のことは酔ってたからだって言って、はぐらかすこともできた…と思う…」 こんなファミリーレストランでハンバーグをばくばく食べながら話す内容ではないことは分かっている。 周囲の人たちの楽しそうに話す声が聞こえて、2人だけの世界に入り込ませてくれない。 「で、でも、憂太は何も言われないし、続行でいいのかなって。…それに、なんか憂太はどれだけ近くにいても嫌じゃなかったから。…なんでだろ?」 なぜ嫌じゃなかったのかという感覚に合う言葉を探してみても、ぴったり合う言葉が見つからない。 「ま!理屈では証明できない何かが俺に働いたってこと!本能的に!」 結局、なんの答えにもないことを熱々のフライドポテトを口に放り込みながら堂々と言い切った。 「あーもう、やっぱり敵わなすぎる…」 首を後ろに曲げた憂太は、天を仰ぎながら、あははと笑った。 「湊がめずらしくなんか考えてたから、何か理屈っぽく惚気てくれるのかなって期待したのに」 前のめりになって俺の話を聞いていた憂太が、なんだよーと悪態をついてソファ席にもたれる。 「あはは。ざんねんだったなー。憂太は恋心を自覚するきっかけがあったかもだけど、俺は最初から憂太の側にいることは心地良いってことを本能的に察知してたってことだな」 悔しがる憂太を指さしながら、ぷぷぷ、と茶化した。 あーこれは寝る前に今日のやり取りを思い出して、後で恥ずかしくなるやつだなと思った。 それと同時に、この一瞬のことは何故かずっと忘れないんだろうなとも思った。

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