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【番外編②】嵐の前の静けさ/憂太の過去(3)
梅雨が明けて、もう夏休みだというのに湿気は残り、じっとりと汗ばむ季節になってきた。
僕は相変わらず、麻生さんからの相談や女子からの告白を度々受けている。
「あのさ、憂太くん。今日の夜会えない?」
「夜?」
麻生さんはいつも学校で相談をしてくるから珍しい提案だった。
「夕方ぐらいなら良いけど…」
「あ、じゃあ一緒に帰らない?」
提案の意図はよく分からなかったけど承諾した。
「彼氏…隼人くんは良かったの?」
「その隼人のことで…」
何となくいつもとは違った雰囲気を感じて、それ以上問い詰めなかった。
授業が終わって帰る時間になっても、麻生さんは待ち合わせの場所になかなか現れなくて、LINEも未読のままだった。
「(忘れてるのかな。帰ってもいい…?)」
帰っても良いだろうという気持ちと、相談したいと言われているのに放って帰る罪悪感を天秤に乗せた結果、もう少しだけ待つことにした。
「ゆうたくん、ごめんね、先生に捕まっちゃってて」
走ってきた麻生さんは、胸元を掴んで暑そうに制服の中に空気を入れている。
行こっか、と言って歩き出して、2人並んで歩く。
僕の肩までもない麻生さんが制服をパタパタとするたびに、服の隙間から薄いピンク色の下着らしきものが見える。
姉のせいで女性の下着は見慣れているが、麻生さんにはもう少し警戒したほうがいいよって言いたかった。
「隼人とずっと付き合ってたけど、やっぱり喧嘩が絶えなくてね。もうダメかも」
長い髪を片方の耳にかけて話す麻生さんは寂しそうだ。
「毎回ね、憂太くんに頼ってて、頼ってばっかじゃだめだーって思って…隼人と言い合いになっても、1人で何とかしようって頑張ったんだけど。1人じゃ何にも解決できなくて、ずっと泣いちゃって…だめだめでしょ」
少しの間黙って、俯いているから泣くのを我慢しているのか様子がわからない。
「だいじょう…ぶ…?」
「…ずっと、憂太くんの優しさに支えられてたから、隼人と上手く言ってたんだってわかっちゃたの。なんかそれから、憂太くんのことが頭から離れなくて…」
「え?」
彼氏と別れたくないとか、そんな話だと思っていたから驚いて言葉が出ない。
「隼人じゃなくて、憂太くんと居たほうが幸せなのかな……憂太くんは、もし私が彼女だったらいや?」
「えぇ?…いや…じゃないけど?」
脈絡が掴めなくて、曖昧な返事になった。
隣を歩く麻生さんが僕を見上げる。
「じゃあ、もう少し頑張らないと…だね」
夕陽を浴びた淡い茶色の目がニコリと柔らかく細くなる。
何となく、今日の麻生さんとのやり取りは意味深に感じて、急いでいつものように2人の関係が少しでも修復できるように言葉を慎重に選んだ。
それでも、これで良かったのかなと胸がざわざわする感じは取れなかった。
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