1 / 1

第1話

 昭和のサラリーマンと言うのは過酷なもので、人によっては年数回の休みしか許されず、馬車馬のように働いてなんぼの世界だった。かく言う水木もその一人で、残業はそんなになくても接待に続く接待で体が疲弊しているのが自分でも分かるくらい疲れている。 「ただいま……」 「おぅ水木。よう帰った」  接待は酒の他にも食い物はあるので、それで食事替わりにはなるから夕食はいらない。 一緒に住んでいる・と言うか一人暮らしのところに転がり込んできたゲゲ郎は「自分の食事くらい自分で調達する」と言い張り、平日に限り夕食は別々に取っていたのだった。 「飯は? もう食ったのか?」 「ああ。もう食った。それより風呂じゃ。一緒に風呂に入ろう」 玄関で靴を脱いだのをいいことに抱えられて風呂へと誘われる。 「ぇ……ちょっと」 「疲れたじゃろ? 今労わってやるからのぅ」  言いながら洗面所でそそくさと下着まで脱がされると湯気が立つ風呂場に一緒になって入る。椅子に腰かけると熱い湯をかけられて石鹸で体を洗われた。酔った体にそれは心地よくて、ついウトウトとしてしまうくらいだ。でも忘れてはならない。こいつは俺を食おうとしているんだと言うことを。 洗っている指先がだんだん妖しくなっていって、それに気付いた水木が彼を呼ぶ。 「ゲゲ郎……?」  彼を仰いだついでにキスをされて、そのまま後ろから抱き締められると事は始まった。 「愛いのぅ……」 「俺、疲れてるんだけど……」 「さっさと風呂を上がって注がせろ」 「嫌だね。もう……眠い……」 「いや。お主は叩けば鳴る太鼓じゃ。それに」  儂のモノはお主を元気にさせるのじゃ。  そんな言葉を聞いた気がする。 水木は虚ろな意識のまま湯舟に入ると、次には布団の上で天井を見つめていた。 体を這うゲゲ郎の長い舌に、執拗に体に入り込む彼の指。 「ぅっ……ぅぅ……」 「そろそろ……じゃのぅ」  尻の穴を解していた指が抜けると、次には彼の馬並みのモノが入り込んでくる。 「あああっ……! ぁっ……ぁ」 「いいっ。ズドンッと奥まで行くからのぅ」 「あっ! ぅっ……ぅぅっ……」  臍の辺りまで入って来てるんじゃないかと思うほど奥まで一気に突っ込まれて思わず体が痙攣する。それを善しと捕らえたゲゲ郎がガンガンモノを出し入れさせてくるもんだから、水木はされるがまま耐えるしかなかった。 「やめっ……や……めろっ……。おかしくなるっ……ぅっ……ぅぅっ……ぅっ」 「しかしのぉ、こうも毎晩せねばならぬほど背負っておるお主も悪いんじゃからなっ」 「ぁっ……ぁっ……ぁぁっ……んっ!」  何だよ、それ……⁉  水木は相手が何を言っているのか分からず、ただ喘ぐしかなかった。  真正面から向き合うように繋がって中を抉るように掘られると、次には身を反転されて後ろから突かれる。 「うっ! うっ! うっ!」 「注いで、注いで、注ぎまくらねば」 「あっ! ぅっ……ぅっ……ぅぅっ……ぅ」  言いながら犯されて翻弄されるだけされてグッタリとしたところを今度は抱えられながら下から突かれた。その時にはもう気絶寸前で、相手の動きが早くなると目の前はシャットダウンされる。そして次に気が付いた時には大きな胸に包み込むように抱かれていた。股や腹が自分のモノなのか相手のモノなのか分からない精液で汚れてカピカピしている。 「ゲゲ郎……」 「ん……」  返事らしい返事はない。きっとすることをして満足したのだろう。水木も疲れている体に疲れることをされて指一本動かしたくないくらいだった。  何で毎晩毎晩……。 目を綴じると何も考えられずに深い眠りにつく。腹の中で奴の放ったモノが蠢いているような気さえする。それほどたっぷり注がれて……嫌じゃないのが重症だと思った。 〇 「水木」 「んっ……ん……」 「水木。のぅ……。時間がのぅ……」  肩を揺さぶられて目を覚ますとテレビのニュースが七時と言っていた。 「あっ!」  ガバッと身を起こすと「飯がのぅ……」と情けない顔でゲゲ郎が近づく。 「炊いてないのか⁉」 「すまん……」 「いいっ。それよりもう行かなくちゃ」 「また会社か?」 「ああ」 「たまには共に散歩とかしたいのじゃが……」 「……ごめん。今度の休みにでも一緒に行こうな」 「まことか⁉」 「ああ。……にしてもだな……」  立ち上がるとトイレに行こうとして一歩踏み出すとともに尻に力を入れる。毎晩されているせいか、粗相しないように無意識の行動に走るのに苦笑してしまう。 「なんで毎晩なんだよ」 「言ったじゃろ。浄化じゃ」 「浄化?」 「接待とやらをして来ると、必ずと言っていいほど要らぬものを連れて帰る。それをいつまでも持っておると人はどす黒く変わっていくからのぅ」 「……そうか……」  接待では取引が欲しくて相手と寝ることもあった。 だけどゲゲ郎と暮らすようになってそんなこともしなくなり、それでもどうにか常時上位に食い込めるくらいには成績を維持できるようになっている。  それもこれも全てお前がいてくれるお陰なのかな……。 憑き物を払う力。 ゲゲ郎には見えないものが見えている。 だからそんなことが言えるのだと思うのだが、この浄化の仕方はどうなんだろう……とも思う。さすがに毎晩尻に突っ込まれては事に慣れてしまい、仕舞にはないとやっていけなくなりそうで怖いものがあった。 トイレで腹の中の残留物を吐き出すと、ようやく一日が始まる。 水木は顔を洗って玄関先から配達されている瓶牛乳を二本持ってくると一本を彼に渡し、もう一本を自分でグビッと飲み込んだ。 「うん。今日も旨いっ」 「この牛乳と言うものは栄養満点なんじゃな」 「ああ。でもこれだけじゃ朝飯としては弱い。どこかでパンのひとつでも食っていかないと……」  お前はそれで足りるのか? とゲゲ郎を見ると、彼は空になってしまった牛乳瓶を口につけて傾けると、もっと出ないものかと苦戦しているように見えた。 「ゲゲ郎、一本じゃ足りないか……」 「もちろんじゃ。他に食う物があれば別じゃが、これだけでは一日持たぬ」 「ごめん。今日は接待ないから帰りにスーパーで何か調達して来るからな」 「承知。ではそれまで我慢することにする」 「いや、いやいや。その前に何か食え」 「うぬ」  財布から朝と昼の食事代を手渡すと近所の店で何か買うように伝える。相手はそれを手にはしたが、なかなか実現しなさそうにも見えた。しかし金はないよりあったほうが重宝する。困ったら使うように促すと柱時計が七時半を告げた。 「げっ! もう七時半かっ」  急がないと。就業の時間は八時からだから、もう家を出ないと間に合わない。 「俺、もう行くわ」 「うぬ、行って参れ。今日は変なものを連れて来ぬように」 「ああ」  背広の上着を手に取ると玄関に急ぐ。 「じゃ、行って来るっ」 「……水木」  急いでいるのに引き止められて深い深い口づけをされる。 「ぅっ……んっ…んっ……ん。ばっ……か、時間なぃっ……」 「それでもじゃ」  レロレロと口の中を舐められて、仕舞には喉仏までチロチロと舐められてようやく解放される。 「おまじないじゃ」 「ぅっ……ぅ…………」  それだけでもう立っていられないくらいメロメロになってしまったのだが出社はしなくてはならない。水木は右に左にとふらつきながら玄関を出て会社に向かった。  今日も太陽が目に痛いくらいギラギラしている。変に出がけにキスされたせいで尻がムズムズもしてきた。 会社で調達、なんてことにならないといいけど……。 そんなことは絶対にない! と言い切れないほど今の水木はフワフワしていた。しかし現実味のない足取りを現実に戻すために歩く一歩に力を入れる。一日はまだ始まったばかりだ。 終わり 202402161203 タイトル「憑かれ人、水木」

ともだちにシェアしよう!