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「な、なんですか」 さすがの小口も困惑した。 遠慮がちで諦めていた子どもがこんなにも押し付けてくるとは思わなかったからだ。 だが、言葉を話せずただ押し付けているとそのうち、大切であろうおえかき帳が折れ曲がってしまう。 だから、それを受け取った。 すると大河は大人しくなり、小口のことを見つめていた。 どことなくそのおえかき帳を見てみろと、訴えているように感じ取った。 その視線に促されるがままに捲った。 しかし、その一枚目の描かれていた絵に驚かされることとなった。 紙の右側に申し訳なさそうに黒髪の真ん中分けで、笑った顔の人物が描かれていた。 実際にそのような表情は茶番劇をした際の一回きりしか見たことがなかったが、黒髪の真ん中分けという最も特徴らしい特徴を見た時、真っ先に思い出される人物がいた。 「姫宮、さま······?」 少し上擦った声が出ていた。 この子が描くものと言ったら、その人物であるはず。この子と一緒にいた時はこのような表情をしていたのだろうか。 次のページを捲ると姫宮らしき大人と大河らしき子ども、そして銀と黒が混ざった髪色をした男性が並んで手を繋いでいる様子が描かれていた。 この人物が大河の父親にして、姫宮の相手なのだろうか。 「この人は、大河さまのパパさまなのですか?」 指で差して訊いてみる。 すると、大河はすぐに頷かず、迷っている仕草をしていた。 何故、そのような反応をするのか。 本当の父親ではないということなのか。 少し経っても頷かず、困っている様子の大河に姫宮らしき人物を指差した。 「この人は大河さまのママさまでしょう?」 そう訊ねるや否や大河は食い気味に頷いた。 さっきとは全く違う反応に思わず失笑した。 「とっても好きなのですね」 わたしはまだこの子のようにはっきりと好きとは言えないけど、嫌いではなかった。 こんなにも好きと想ってくれている子が、親と何があったか分からないが、離ればなれになっているのはあまりにも可哀想だ。 少しでも思わせないように、小口なりに大河のことを楽しませなくては。 そんなことを初めて思った自分に驚き、また笑った。 「じゃあ大河さま。大好きなママさまと帰るまで、わたしと遊んでましょうか」 人の顔を伺っていた大河がやがて頷いたことを機に遊び始めた。 こうしていたらそのうち大好きな母親が帰ってくるだろう。その時、自分は変わらずの態度で迎えてあげよう。 そうしたら、少なくとも気負いせずいてくれたらと思って。

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