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第1話

「はあ・・・」 九条 誠(22)はカフェのバックヤードの休憩室で、 ひときわ大きな溜息を吐く男を半顔で見下ろした。 その男は茶髪でくせ毛の短髪。 顔は女受けしそうな可愛い系の甘い顔。その男の名前は柏木 恵(19)。 一応大学生だが女好きでしょっちゅう違う女と遊んでは振られているらしい。 どうやら今回も女に振られたようだ。 「柏木くんさ、あんまり職場で溜息吐くなよ」 一応社員で先輩の誠は軽く注意するが、 「えー、マコ先輩ひどいー。俺振られて傷ついてるのにー」 と、注意しても効いてない。彼はそんなに仲良いわけでもない先輩の誠を『マコ先輩』とか『マコさん』と呼ぶ。 馴れ馴れしいやつだ。 誠は溜息を吐いて、腕を組み休憩室の壁に寄りかかり、 「どうしたの?」 「彼女に振られて、家追い出された」 ぐすっと涙ぐみながら、恵はつぶやいた。 「原因は?」 「彼女の友達とデートしたら怒られて」 「お前が悪いな」 「デートしただけじゃん」 「彼女可哀想ー」 「えー、別にエッチしたわけじゃないのにさー」 「下心もないわけ?」 「・・・ない」 「最低だな」 「ひどいぃー」 突っ伏してまた泣く振りをする恵を冷静に見下ろし、 「ま、早く彼女でも作って泊めてもらえば」 そう言って休憩室を出ていく去り際に、 恵のくせ毛の頭をくしゃっと撫でていく誠。 「!」 それに驚き顔を上げる恵。誠が出ていった休憩室の入口をずっと見つめて、 誠はある事を考えた。 そして閉店後、 日報を店長に提出して、誠は更衣室に入った。 今日は日曜日でいつもより忙しかったこともあり、誠は息を吐いた。 「店長、しばらく店に泊まっていいですか?」 「えーだめだよ」 人のいい店長さえも恵のお願いには困っていた。 恵はうなだれながら、 「どこか友達の家とかには泊めてもらえないの?」 「男友達は皆家が遠いし、女友達はそもそも泊めたくないって・・・」 とにかく全て断られたらしい。 「店長の家は?2,3日でいいですから」 「俺は家族で住んでるからだめだよ」 確か年頃の女の子がいるって前言ってたな。 なんて思いながら、誠は帰る支度をし始め、 店長はしばらく考え、 「九条、しばらく泊めてやれば?」 「は?嫌ですけど」 本気で嫌な声を上げる誠。店長は呑気に、 「お前一人暮らしだし、家は店に近いし」 「え、近いんですか?マコさん家」 恵はパッと明るい顔を上げる。 誠は悪い予感を感じて、 「いやそんななし崩しに持っていこうとするな!絶対嫌だ!」 「そんな!可哀想な子羊に救いの手を!」 「自業自得だろ!知らん!」 「マコさま、マコ大先生、マコ大明神様‼」 「絶対嫌だ!」 土下座をする恵と、首を縦に振らない誠の攻防を店長はニコニコと見つめる。 数時間後、 「おじゃましまーす」 「・・・悪夢だ」 恵の押しに誠が折れた形となり、しばらく泊めてあげることになった。 「お前はそっちのソファベッド使えよ。まだそんなに寒くないから毛布でいいだろ。あと・・・」 色々説明してくれる誠に、恵はふっと笑い、 「やっぱりマコさん優しいね」 へらっと笑う恵に、一瞬ぐっと来ながらも、 「うるさい。女連れ込んだら追い出すからな」 「へーい」 軽い返事をしてソファベッドに飛び乗る恵。 誠は本気で頭を抱えた。 恵を泊めたくない理由は一つ。 誠は恵の事が好きだから。 こんな女にだらしなくても、迷惑を掛けられても、 好きなことは変わらなかった。 しかもそれを知られないようにずっと気をつけてきたのに、一緒に暮らしてしまうと、油断してバレてしまうかも知れない。 今はそれを警戒していた。 翌朝、 誠は毎朝6時に目が覚める。 別に出勤が早いわけではない。朝早く起きることで自分の時間を大切にしているのだ。 シャワーを浴びて、コーヒーを飲むためのお湯を沸かす。 その間にベッドメイクをし直し、 誠はふと部屋の橋のソファベッドに目を向ける。 起きた時から実は気が付いていて、なるべく見ないようにしていたが、 もう起こさなくてはいけない。 しかし・・・ 「うーん・・・」 ソファベッドで気持ちよさそうに眠っている恵は、声を漏らしながら寝返りを打ってこちらを向いた。 白いTシャツとスエットのパンツの上に毛布を掛けて眠っていたが、毛布を蹴飛ばしてTシャツがめくり上がっていて、割れた腹筋がチラ見している。スウェットも少しだけずり下がっていて、ボクサーパンツが見えている。 それに・・・朝のせいか、恵の股間は勃っていた。 (目の毒だ・・・) と思いつつも目が離せない。 大きくて硬くて、それを挿れられたらどれだけ気持ちいいか。 なんて想像していると・・・ 「わっ!」 恵に腕を引っ張られて、彼の腕の中に抱き寄せられる。 「ち、ちょっと!何寝ぼけて」 「うーん・・・いい匂い」 恵は抱きしめる誠の首筋に顔を近づけ鼻をすりすりとこすりつける。 それにドキッとする誠。 そのまま恵は勃っているモノを、誠の太ももの間に擦り付けて腰を揺り動かし始めた。 「んっあっ、ちちょっと!俺で抜こうとするなって、こら」 抱きしめられている腕は力強くて振りほどけない。 それに気がつけば誠も勃ってしまった。恵が腰を揺り動かす度に誠のモノの先っぽも恵のお腹に擦られ、気持ちよくなっていく。 「あっあっ」 声を我慢したいが、気持ちよくて止められない。 そのまま朝から2人でイッてしまった。 誠は疲れ果てて脱力する。 恵はようやく気が付いて目を覚ます。 「ん・・・あれ?マコせんぱ」 「早く起きろって‼」 誠は恵を殴って起こした。 そのあと出勤した恵は、頬にバンソーコを貼っていた。 「あれ?どうしたの柏木くん」 その店長の言葉に、恵は更衣室でうなだれながら 「ちょっと先輩を怒らせまして」 「世話になってるんだから怒らすなよ。冷たいように見えるけどあれで結構優しいんだから」 「・・・へい」 (十分反省してるんだけどな・・・) でも半ば寝ボケていたとはいえ、誠が起こるもの無理はない。 でも、夢心地で聞いていた誠の喘ぎ声がめちゃくちゃエロかったのは覚えている。 (それに、マコ先輩そんなに嫌かって無かったような・・・) などと考えていると、 バンッ! 更衣室の扉が勢いよく開き、 「時間過ぎてるから」 まだ怒っている誠がもたもたしている恵を睨んで呼びに来た。 「は、はい」 慌てて支度をして、朝礼に参加する。 普段あまり怒る事がない誠はだんだん疲れてきて夕方になると、恵に対して普通に接するようになった。それを恵は彼の怒りが収まったと思い安心したのだった。 休憩時間、 「マコ先輩、まだ怒ってる・・・?」 恐る恐る恵は食事の手を止めて、誠の機嫌を探っている。 まるで子犬のような恵を見て、誠はしばらく考え込んで・・・ 「あ、そっか俺怒ってたんだっけ」 「ふっ、なにそれ」 可愛く笑う恵に、誠ははあっとため息を付きながら、 「忙しくてそんな事忘れてたわ」 「俺寝ぼけててあんまり覚えてないけど、ごめんね」 「何に怒ってたのか忘れた」 ふんっとそっぽを向きながら、食事を済ませる誠に、 (本当に優しいんだなぁ) 誠の優しさを感じて、恵は1人でニヤけた。 その日の夜、 「マコ先輩、今日は俺が夕飯作ります!」 謝罪のつもりなのか急に食事を作ると言い始めた。何が悪かったのか分かっていないのに謝罪って・・・ 誠は、ふっと笑いながら、 「柏木くん、料理できるの?」 「出来ますよ!カレーとシチューと鍋しか今のところ作れませんけど」 「作り方だいたい一緒だろ」 「今日はカレー作ります!」 「・・・聞いてないな」 半ば呆れている誠を尻目に、恵は手際よくカレーをく釣り始めた。 「ん、美味い!」 誠はひとくち食べて驚いた。恵は嬉しそうに 「でしょ?にんにくより生姜が多いことが決め手なんです。あと顆粒だしを入れるのも」 「なるほど和風の味付けが日本人の口にはあってるんだな」 味を分析しながらもくもくと食べすすめる誠。 恵はホッとして、自分も食事を楽しんだ。 無事に仲直りを果たして、恵は風呂上がりにソファベッドに横たわった。 今誠がシャワーに入っている。 恵はスマホを見て、改めて自分の連絡先が女の子ばかりだなと思いながらも、想像したのは朝の誠の乱れた姿。 朝の誠の喘ぎ声が、耳から離れないでいた。 あのクールな誠があんなに乱れて・・・ 少しだけ股間が反応する。 「・・・」 ムクッとなっている自分の股間を見下ろし、 (俺男もイケるのかな・・・) などと考えていると、 ガチャ 誠が風呂から上がってきて部屋に戻ってきた。Tシャツとパンツ一枚の姿で。 「先輩パンツ派手ー、風邪引くよ」 「うるさいな、持ってくの忘れたんだよ」 バスタオルで髪を拭きながら、クローゼットを開けスウェットのパンツを探す。恵はそんな誠の後ろ姿をマジマジと見つめる。 顕になったその生足に目が釘付けになる。 まるで女の子のような細身で色白の肌。ボクサーパンツを履いた小さくて上がったお尻。恵はちょっとエロいと感じ、誠の太ももの内側を撫でた。 「ひゃあっ」 びっくりしてバッと振り返る誠。 「なに!?」 「あ、いや・・・マコ先輩ってさ、結構エロい身体してるよね」 「は!?」 「だってさ・・」 そういってまた誠の足の付根を撫でる。 「っあ」 思わず感じてしまい、やらしい声を上げる誠。 それに気を良くしたのか、恵はパンツを履いた誠の尻の柔らかい部分をむにゅっと両手で揉む。 「あっ、ん・・・ち、ちょっとやめ」 気持ちよくて立てなくなり、床にへたり込む誠。 「こんなに感じて、エロッ・・・もしかしてケツでイケるタイプ?」 「っ・・・」 誠は答えない。 キッと調子に乗る恵を睨んで、恵の腕を背中で組ませてぎゅっと腕を強く縛り付ける。 「ぎゃー!痛い痛い!」 「お前は反省してねえな!」 「してる!してるから!ごめんなさい!」 肩の関節がギシギシいう恵をようやく話してやる誠。 「マコ先輩って強いっすね」 「お前みたいな奴がいるからだよ」 グサッとくる言葉を言われ、 「先輩は男が好きなんですか?」 「・・・寝るぞ」 それには答えず誠はスウェットを履いてベッドに潜り込んだ。 深くは聞かずに恵も床についた。 そんなある日の夜、 誠は大学時代の友人である乙川に誘われて、飲みに行った。 「久しぶりだなー、彼氏できた?」 乾杯を済ますと、乙川はさっそく軽いノリで訪ねた。 大学時代の仲間の中で唯一ゲイ同士である事を知る仲だった。 社会人になってからはあまり合う機会がなかったが、 時々こうして飲みに行っている。 「そんな簡単に出来るかよ」 乙川の言葉に溜息を付きながらビールを飲み干す。 「俺は今、いい感じの人出来た」 「うらやまー」 「ときめきもないのかよ?」 「・・・後輩と同居している」 「えー、これはこれは」 「うちの店のバイト君で、女好き。彼女に家追い出されて、店長命令で仕方なく置いてやってるだけだ」 その言葉に、乙川はじっと誠を見つめ、 「・・・お前まんざらでもないだろ」 「・・・」 「そいつのこと、好きだろ?」 「・・・」 誠は黙って下を向く。 はあっと、溜息を吐いて、 「どうしてあいつ女好きなんだろなぁ」 「頑張れ」 笑って乙川は誠のグラスにビールを注いでくれた。 店を出て、駅まで2人揃って歩く。 乙川は昔この辺に住んでいたが、転勤が多く今は職場はこっちだが家は駅が違う。 彼を見送るために駅まで歩く誠に、 「大学の時は、自分だけゲイであることに悩んでいて、本当に辛かった」 「え、お前誰とでも仲良くなれてたじゃん」 乙川の意外な言葉に、誠はびっくりする。反して乙川は、 「表面上はね、でも恋愛のことに関しては俺たちは話しが違うでしょ?」 「まあな・・・」 本音を言うと、大学時代は少しだけ乙川を意識していた。2人にしか理解できない世界が確かにあった。お互いの恋愛相談をしたり、落ち込んだら励まし合ったり。 乙川は本当にいい男だから。 「今日はありがとう。ここでいいよ」 乙川は駅の少し手前の十字路で別れを言う。 「そっか、また飲もうぜ」 笑いかける誠に、乙川は彼の肩に手をのせ耳に顔を近づける。 「ノンケはいつでも女に戻る選択ができる。同居してる彼もね」 「えっ」 疑問符を浮かべる誠に、 乙川は誠のほっぺにチュッとキスをした。 「俺はずっと誠の味方だからね。辛くなったら俺を選んで」 優しく囁いて、帰っていった。 「・・キザ」 キスされた頬を押さえつつ、誠は夢心地で呟いた。 乙川は嫌な感じはしない。 大学時代はむしろ好意を思っていた。 複雑な思いを浮かべつつ、誠は家路について。 「おかえりなさい、マコ先輩」 家に帰ると、恵が風呂上がりでくつろいでいた。 友達と飲みに行くと伝えていたので、1人で食事を済ませたのだろう。 ソファベッドに横になり、スマホをイジる恵を誠はじっと見つめる。 それに恵は気が付いて、 「ん?どうしたの先輩?じっと見て」 「いや別に」 「俺がイケメンで見惚れてたとか?」 「寝る前に寝言を言えるってすごいなお前」 「ひっど!」 ふっと笑い誠は風呂に向かう。 その彼が気になって目で追う恵。 誠が風呂に入った後、恵は彼のベッドの上に横たわった。 枕に顔を埋めると誠の匂いがする。 誠を抱きしめた時の色っぽさと喘ぎ声を思い出し、 恵は彼のベッドの上でズボンを下ろし、自分のモノをしごき始めた。 「はっ・・・」 誠の乱れた姿を想像して、今風呂に入っている所を想像して、 「っ、やばい出そう」 喘ぐような声を漏らし、1人で気持ちよくなっていると、 「・・・人のベッドでオナってんじゃねえよ」 半顔でいう誠。 しかしその場面を照れながらもガン見する。 Tシャツとパンツ姿で、陰部は丸出しでしかも自分でシてるのを隠そうともせずに自分でイジるっている。 恵のモノを初めて見たが、太くて大きくてそれを挿れられたらと想像するだけで、後ろがうずく。 恵は気持ちよさそうに目を薄めながら、 「だって先輩の匂い嗅ぐだけで、何かやらしい気持ちになっちゃって」 「なっちゃってって・・・」 「先輩もしてあげる」 「うわっ」 誠は恵に手を引っ張られ、ベッドに横たわる恵の上に倒れ込んだ。 「ちょっとバカ!髪まだ半乾きんむ」 ベッドに押し倒されて、強引にキスをされる。 厚くて長い恵の舌が誠の口の中を埋め尽くす。 「んっむう」 キスをしながら、恵は洗ったばかりの誠の身体を首筋から触っていき、寝間着のシャツの中に手を入れていく、片手でボタンを外していき、誠の乳首をコリコリし始める。 「はっあっん・・・やめっ」 ビクビクと反応する誠。すでに恵のオナってる場面を見てしまったのでヤバい。 「先輩いい匂い」 熱っぽくそう言いながら誠のモノを握る。そのまま上下に手を動かし擦り始める。 「あっあっ」 びくびくしながらいい反応をする誠。恵はじっと彼を見つめながら、 「飲みに行った人って誰?」 「んっ、え・・大学時代の・・・はっ、友達」 「ふうん。いい男だったね」 「え?」 「さっき見かけた」 その言葉に、誠はばっと恵を見る。 恵は見たことのないような複雑な顔をしていた。 「駅の近くで、キスしてた」 「・・・ほっぺだよ」 「でも、あの人は先輩のこと好きでしょ」 「・・・好意は伝えられた」 誠はなぜか気まずくなり、恵から顔を背けた。 別に恵と付き合ってるわけじゃないから、誠が後ろめたさを感じる事はないんだが。 恵は誠のモノをイジる手を止めず、 「大学時代は、あの人の事好きだったの?」 そのまま恵は誠の股の間に、前の様に自分のモノを挟んで腰を動かした。 今度は前からしているから、誠の後ろに擦られてしまう。 「はんっ、そ、それ、やめっ、ああ」 誠の後ろが明らかに擦られてひくついている。 気持ち良すぎて、何も考えられなくなっていく誠。 まるで挿れてるみたいだ。 恵の腰が揺り動くと、誠のモノからビュクッとイッてしまう。 「気持ちよくてもう出ちゃったの?先輩可愛い」 恵もまた、腰を動かしながらだんだん興奮していく。 さっきの乙川といる場面を見られてた。 でも、何でそんな事聞く? それじゃあまるで・・・ 「それじゃ・・・まるで嫉妬じゃん」 感じながらも誠は恵に問う。 「そうだね」 一瞬動きを止める恵。 「先輩のこと好きだし」 「え・・・あっ!」 そのまま恵は誠の後ろに自分のモノをぐっと押し付ける。 「ち、ちょっとっ、入っちゃうからまって!」 「挿れたいんだけど」 真剣な恵に、慌てる誠。 「挿れたいって・・・待って」 誠は腕で顔を隠す。 自分だけずっと好きだったのに、ずるい。 「挿れられたら・・・もうお前のこと諦められないだろ」 「え?」 「俺がお前の女話どれだけ複雑な想いで聞いてたか」 言ってしまった。 ずっとこれからも、言わないつもりだったのに。 お前にオチたくなんて無かったのに。 「諦めなきゃいいじゃん」 言って、恵はぐっと奥まで挿入した。 「はあっ」 苦しくて気持ちよくて、全身が震える。 恵はそのまま腰を揺り動かした。 バチュバチュとやらしい音が、部屋に響いている。 2人が今、繋がっている。 「あっあっああん」 快楽が誠の思考を奪う。 「気持ちいいっ、あっ、もっとぉ」 「くそっ、ホントかわいいなっ」 2人は同時にイッて、誠はそのまま気を失い様に眠ってしまった。 ついに一線を超えせてしまった。 嬉しいはずなのに。 誠には、もともと女が好きな恵が本当に自分を好きになるのかなんて、 思ってもみない事だ。 翌日から恵は朝早く家を出て、誠が寝静まった頃に戻ってきた。 言葉を交わさなくなって、 数週間。 仕事中は必要な話しだけをして、後は関わらなくなった。 その2人の空気に気がついた店長が、 「2人、喧嘩でもしたの?」 誠に疑問を投げかけた。 誠はこの数週間ほとんど眠れなくなっていた。 「仕事中も眠そうだし、大丈夫?」 怒るというよりむしろ店長は心配してくれた。 誠はぐったりと休憩室のイスに腰掛けて、 「・・・ちょっと考え事して、すみません」 「謝らなくていいけど、身体大丈夫?」 「ええ・・・」 と、立ち上がろうとして、 ぐらっと、よろめく。 「九条くん!」 焦った店長の言葉が、遠くに響いて・・・ 「マコ先輩!」 聞き馴染みのある声に、はっとして誠が目を覚ましたのは、 自分の家だった。 眼の前には自分を心配している恵の姿。 「気分悪くないですか?腹減ってないですか?」 と、こちらの手を握ってくる。 その体温にほっとする。 でも、駄目だ。 その手を振りほどいて、 「大丈夫だ」 といって起き上がろうとする誠。 「駄目です。今日は休んでください」 「だって仕事が・・・」 「倒れたんですよ!駄目です」 きっぱり言って、恵は誠をベッドに押し付ける。 まだ起き上がろうとする誠に、 「言いから寝てろよ!」 怒鳴られて、誠はビクッとして黙る。 両肩をグッと掴まれて、ベッドに無理やり寝かされる。 恵はまっすぐ誠を見つめ、 「お願い、心配させないで」 せつなそうに訴える。 その表情にドキッとしながら、誠は黙ってうなづいた。 恵はホッとして、 「じゃあ俺店戻るから、絶対寝ててくださいね」 「わ、わかった」 誠の返事を聞いて、恵は玄関に向かう。 「俺のせいだね」 誠には背中を向けたままそう呟いた。 「柏木・・・?」 「ごめんね、困らせて」 バタン・・・ 恵の言葉を、ただ黙って頭の中で繰り返した。 自分を心配してくれた恵に、誠は素直に嬉しかった。 なのに、苦しい。 受け入れてはいけない。 そう思ってしまう。 今は自分に好意的でも、 いつか女性を好きになって、眼の前から去ってしまう。 そう思ってしまう。 ただ、好きでいられたら、どんなにいいか・・・ 誠は気を失う様に眠っていた。 目を覚ましたらもう部屋が暗くなっていた。 部屋の電気をつけて、スマホの通知を確認すると、 乙川から連絡があった。 よく眠ってスッキリした誠は、乙川に連絡を返して家を出た。 「俺転勤が決まったんだ」 乙川に会うと、突然切り出された。 「今度は結構遠いから、しばらくまた会えなくなるな」 「そう、か・・・」 駅の側のガードレールに腰を下ろしたまま、2人は話した。 あまり会えなくなると聞いて、少しだけさみしい気持ちになった。 「俺に会えなくて淋しい?」 冗談めかして乙川は笑う。 でも本人が少しだけ、寂しそうだ。 誠は、まっすぐ乙川を見つめて、 「うん」 「誠」 乙川は嬉しそうに目をうるませた。 「一緒に来ない?」 「え・・・」 「誠を連れていきたい」 はっきりとした口調で、でも遠慮がちにそう伝えてくれた。 乙川は、誠の頭を優しく撫でて、 「ノンケとの恋愛は疲れるよ? 俺は今までもこれからも、誠だけ好きだ」 乙川は本当に大学時代から優しかった。 男同士の恋愛の辛さも現実も知ってる。 それも、良いもかもしれない。 「マコ先輩!」 振り返ると、恵が全力で駆け出してきた。 誠と乙川がいる少し先で立ち止まり、肩で荒い息をつく。 「どこいってたんですか!帰ったらいないし・・・探しましたよ」 「・・柏木」 すると乙川は、誠の肩を抱き寄せ、 「君には関係ないよ」 「関係ある!」 恵は断言して声を張り上げる。 「君が将来女を選ぶ保証はないだろ?僕たちは男しか愛せない。君とは違うんだ」 その乙川の冷淡な言葉が、誠の心に違和感が生まれる。 「そんな保証はない」 きっぱりと言う誠。それに乙川は笑い、 「だろ?」 「でもさ、それってあんたも一緒だろ?」 「は?」 乙川は段々とイライラしてくる。 恵は揺らがない。 「男同士だろうが、女同士だろうが、男女だろうが、 他の人を好きにならなり保証なんてないだろ?」 乙川は黙る。 誠はじっと恵を見つめた。 「勝手に制限を付けてるのは、お前だろ」 同性とか異性とか関係ない。 「俺は男が好きなわけじゃない。 でも、マコ先輩が好きだ」 あの時、自分はけして半端な気持ちで挿れたわけじゃない。 好きだから。 誠を抱きたかった。 恵は、誠に向かって手を差し出したまま、 「帰ろう先輩」 そう言って誠を優しく見つめた。 誠は、乙川の手を避けて立ち上がる。 「誠!」 乙川は彼の手を握る。 「ごめん。乙川」 まっすぐ乙川の方に振り返る。 「俺、お前とは行けない」 すがすがしい誠の表情に、 乙川は黙って手を放した。 小走りで恵の方に駆け寄り、 誠は彼の手を握り返してくれた。 そして照れ笑いを浮かべていた。 恵はそれを見て、 素直に可愛いと思った。 2人は手を繋いで家に急いだ。 恵はすぐに誠をベッドに寝かせ、 「ちゃんと寝ててください!まったく人を心配させて・・・」 「ごめん」 少しだけ怒ったような素振りを向ける恵に、 誠はなぜか嬉しそうに謝罪した。 「・・・何嬉しそうにしてるんですか」 「ん」 誠はベッドの中に潜り、顔を隠したままで、 「お前が、心配してくれてるのが・・・嬉しくて」 と、消え入りそうな声で呟く誠。 「っ・・・」 それに完全に照れる恵。 「いいからとりあえず寝て!」 と、横になる誠の頭をぐしゃぐしゃと撫でる。 ふふっと笑う誠。 ちらっと恵を見上げ、 「添い寝して」 「・・・あんたね」 抱きたいのを我慢してるのに、そんな可愛いこというのかよ、と。 内心ツッコミを入れながら、恵は照れながら溜息をついて、 ベッドに横たわる誠の隣に寝転がる恵。 彼の身体を布団の上からポンポンとあやすように落ち着かせる。 誠は恵の胸にぴったりくっついて、 寝息を立てだした。 彼が素直に自分に甘えてくれるのが嬉しかった。 愛おしくて、ただ隣にいるだけで、 幸せだった。 「元気になったら抱くからな」 1人事のつもりで言ったそのつぶやきに、 「・・・うん」 誠が小さく返事を返してくれた。 「え」 「おやすみ!」 誠はすぐにふとんに隠れた。 いや、『うん』って・・・ たまらなくなり恵はぎゅっと誠を抱きしめた。 「もう元気になったみたいだね」 店長が3日ぶりに出勤してきた誠を見て、 ほっとしたように声かけてくれた。 「すみません、3日も休んで」 「いいよ。九条くんはいつも他の人のヘルプとかしてくれたり、 休日出勤も一番でてくれてたから。疲れてたんだね」 「そんなこと」 「とにかく良かった」 ここは店長が身近で、本当に良いお店だ。 店長への挨拶が済んで事務所を出ると、 恵が待っていた。 朝は先に出勤していて会っていない。 誠が休んでいた3日間、彼の分まで随分頑張っていたようだった。 「休んでる間悪かったな」 「それは別にいいんですけど」 誠の体調を気遣い、家事をほとんどしてくれていた。 その全てが嬉しかった。 「体調はもういいんですか?」 「うん」 誠は頷いて顔を少しそらして、 「だから、その・・・」 もじもじしだす誠。 「?」 きょとんとする恵。 「今夜、ご、ごほうびやるよ・・・」 言ってかっと赤くなる誠。 その彼の態度に察する恵。 「え‼」 一瞬大きな声になる恵。 「仕事するぞ」 誠は熱くなった顔をぱたぱたと手で仰ぎながら、 「え、ちょっと」 まだ夢心地の恵は誠を後を追った。 その夜、 先に帰った誠は夕食の支度を済ませ、 スマホを見ていると、 ガチャ 「ただいま!」 「おかえ・・」 ドアの音と同時にそちらを見ると、 恵が一目散にこちらに向かて入ってきた。 そして、誠の前で正座した。 「へ?」 それを見てきょとんとする誠。 恵はまっすぐ誠を見上げ、 「マコ先輩、その・・・」 「うん?」 よく分からなかったが同じ様に彼の前で正座した。 恵は、もじもじして、 「その、ごうほうびって・・・」 「ん?」 おもいきり期待しているような顔で言葉を濁す恵に、 誠は吹き出しながら、 「こないだの続きでいいよ」 「えっ・・・マジで?」 「うん」 照れながらうなずく誠に恵は、 下を向いて、自分を必死で押さえながら、 「・・・とりあえず夕飯食べましょうか」 「うん」 なるべく普通に過ごそうとしていたが、 お互い緊張して食事の味もよく覚えていなかった。 誠が食器の片付けをしている間に、 恵が風呂に入り、 その後、誠が風呂に入り後ろの準備をする。 誠が風呂から上がると、恵はベッドに座り 「先輩、髪乾かすからこっちきて」 「え、うん」 何だか急に優しくされて戸惑う誠。 ドライヤーで優しく頭を撫でられながら髪を乾かしてもらい、恵はドライヤーを切って、丁寧にしまってから、 恵は優しく誠を後ろから抱きしめた。 誠の心臓が跳ね上がる。 恵はそっと彼の耳元で、 「キスしていい?」 「ん」 頷くとすぐに恵は誠の顎をクイッと上げて、優しくキスした。 誠は恵に髪を乾かしてもらっている間も、ずっとそわそわしていた。 それに気がついた恵が、 「なにそわそわしてるんですか?」 誠に聞いてみた。 すると誠は彼から顔をそらしながら、 「別に」 それに恵はくすりと笑い、 「これから抱かれる準備しているみたいだって思ってるでしょ?」 「・・・」 考えていることを当てられて、顔を赤らめる誠。 恵はそっと誠を背後から抱きしめ、誠の顔を自分の方に向け今度は深くキスをした。 「ん・・」 恵の舌が誠の上顎を撫でる度にビクビクと反応する。 それが可愛いと思っていると、誠はキスをしたまま起き上がりソファに座る恵を押し倒し、彼の上に馬乗りになりお互いのモノを擦り付ける。 恵は誠のシャツを脱がせて、その滑らかな肌を背中からゆっくり下へと下がり、誠のお尻に手を伸ばし指を挿れていく。 「ああっ」 もう自分で風呂でほぐしてきたので、 誠はただただ指を挿れられれ素直に気持ちよくなる。 恵は誠の全てが愛おしくて全身にキスしながら、 「挿れるね」 「あっ」 耳元で囁かれながら、ゆっくりと奥に挿れられ誠の全身が震える。 腰が動く度に部屋中のやらしい音が響いて、恥ずかしくなる誠。 (今、後ろから挿れられてる・・・熱くて硬い柏木のモノが) などと思いながら気持ち良すぎて腰が止まらない。 「あっあっ」 「っつ、マコさんっ」 恵は急に腰の動きを早める。 「あぁん」 「はあっ」 同時にイッてしまう。 荒い息を吐いて、ソファに仰向けになった恵の上に誠が倒れ込む。 「ベッド行こ」 「ん」 移動してまた抱き合った。 誠はそっと目を覚ました。 いつもと同じ朝だ。 でも明らかに違うのは、 ベッドの隣には恵が一緒に眠っていた。 ずっと好きだった恵と昨日の夜は遅くまで愛し合い、 同じベッドに眠っている。 死ぬまでこの気持ちは伝えるつもりはなかった。 同居して手を出されても、いつかは飽きると思っていたが。 恵の口から好きだと言われるなんて、 思っていなかった。 今はまるで夢の中にいるみたいだ。 「夢なら覚めないで・・・」 そう呟いて涙が溢れてきて、 誠は枕に顔を埋めた。 気がつくと、 恵に抱きしめられていた。 「夢じゃないよ。マコさん」 そう優しく呟いて 彼のおでこにキスをする恵。 誠は黙って頷くと、 恵の胸に顔を埋めたのだった。 終。

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