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最終話 甘い時間
玉璽を持ち、王宮を奪取、皇后以下子女たちを捕らえて幽閉した後は、目も回るような忙しさだった。
まずは皇太子が、すぐさま皇帝として即位し、ルーウェをその補佐、アーセールを元帥ということにして体勢を整えた。装束を調進した公爵夫人は、そのまま、採用され、公爵家は財務の顧問ということになった。
また、ルーウェに関しては、『第八王子』という身分から、王弟殿下に変わったのだが、その折り、『第二王家』が設立され、その当主となった。ルーウェが当主であるので、アーセールは婿という形だが、特に気にはしない。
北の国境から皇太子を支えた、グレアンたちは、『皇帝御用達』『第二王家御用達』の看板を掲げて商売することになり、販路拡大の為に、躍起になっているという。
戴冠式の日取りも決まったが、その前に行われたのは、前々皇后陛下、前皇帝陛下の『毒殺』の件であった。即効性の毒ではなく、遅効性の毒。しかも、身体に蓄積するものだったので、遺体にはその痕跡があった。毒を盛っていたのは、指示を受けた侍女だったが、これも、自白している。
この件で、前皇后、第二王子、第三王子、第四王子、第五王子、第六王子、第七王子、第二王女までのすべての子女、毒殺に関わったとして、その使用人たち、そして、元帥や、第二王子派の貴族五家が連座し、どれも、一族族滅の憂き目に遭った。
ルーウェの『客』のリストについて、そこに書かれていた貴族たちの殆どは、自主的に領地を返納し、なぜか、自殺を遂げているという。それについて、アーセールは、詳しいことを聞かなかったが、気にはしていない。
「……ああ、やっと、兄上の戴冠式ですね。サティスは、国を出ると言っていました」
ごろんと寝台に転がりながら、ルーウェが言う。ここまで二ヶ月、毎日、一緒に寝ていても、死んだように休むだけだった。
「やっと、だな……」
めまぐるしくて、頭がおかしくなりそうだったが、それ以上に……。
アーセールは、寝台の上に寝転がって、ルーウェを抱き寄せた。
「アーセール?」
「本当に、もう、限界です」
アーセールの言葉の意味がわかったルーウェは、ぽっ、と顔が赤くなった。お互いの身体の間で、アーセールの欲望が、はっきりと主張して居るからだ。
「……明日が戴冠式ですけど?」
「明日まで待てない」
ルーウェを寝台に押しつけて、首筋に顔を埋める。何度か、軽いキスを首筋に落としてから、アーセールはルーウェの耳元に囁いた。
「……ダメですか?」
「もう! ……この間は、お預けなんて言ったのに……明日こそ、体調不良で望むわけには行かないでしょう……?」
そう言いながらも、ルーウェも、アーセールの体温と、欲情した声にあてられて、肌が熱くなっていく。
「多分、その、手加減とかは、絶対に無理なんですけど……」
「もう……仕方がないのですから……」
ルーウェは、微苦笑して、アーセールに口づけた。
「アーセール。あなたに逢えて、本当に良かった」
「俺もです。あなたに会えて、本当に良かった……俺は、きっと、生涯、あなただけに夢中だと思います」
何度も何度も口づけを交わしながら、アーセールはルーウェから夜着を奪っていく。滑らかな肌。この肌を、もう、誰も害するものはいない。そして、アーセール以外に触れるものも居ない。
「俺だけが、あなたを愛でます」
「……ええ。あなたも、私だけにして下さいね」
ふふっとルーウェが、満足そうに笑う。
「ええ、あなただけですよ」
囁きながら、肌を探る。ルーウェの呼気が、すぐに尖った。美しいラベンダー色の瞳が、とろんと蕩けていく。理性を失いつつあるその顔を見て、アーセールの腰が、ずん、と重く、甘く、震えた。
「……可愛い……」
堪えるような仕草も、白い喉をのけぞらしている姿も、耐えきれなくて、きゅっとシーツを掴む手も、なにもかもが愛おしかった。
「……あ……だめ……」
うつろな声で、ルーウェが、甘く、鳴く。
「……じゃあ、止めます?」
アーセールは、止める気などなかったが、そう、囁いた。ルーウェも、止めろとは言わない。その、確信があった。
「……今日の、あなたは……、ちょっと、いじ……わる、じゃ、ないですか?」
「いじわる、だなんて……あなたのほうこそ、やめろだなんて……」
「あ……、それは……」
その、とルーウェは口ごもって、目を伏せる。恥ずかしいらしく、顔は、真っ赤だった。薔薇色に色づく肌のなまめかしさに、くらくらする。肌は、玉のような汗をにじませていた。
「……もっと……」
「ん?」
「~っ……、だから、もっと……もっと……ちゃんと、して……くださいっ……! もう……、だめ、じれったい……」
ルーウェの細い脚が、アーセールの腰に絡みつく。お互いの欲望同士が、こすれあう。
「あっ……」
アーセールの首にしがみついたルーウェの背筋が、弓なりに反り返った。
正気を失いつつあるルーウェの頬に、キスを落としつつ、アーセールは、ルーウェの最奥へと手を伸ばす。香油を塗り込めて、中を探る。アーセールを待ちわびていたように、そこは、ひくっと収縮した。
「……っ……ん……」
「大丈夫ですかね?」
「うん……。大丈夫……、でも、久しぶりで……」
アーセールの容積を受け入れることに、すこしだけ不安だと、ルーウェが小さく言う。
「……だって、あなたの……大きいから……」
煽るようなことを、無自覚で言うルーウェに「もう、煽らないで下さいよ」とだけ文句を言って、アーセールは、はやる気持ちを抑えつつ、そこを、優しくほぐしていく。指の出し入れが、難なく出来るようになった頃、自身の中心を、アーセールはそこへあてがった。
ルーウェが、嬉しそうに笑む。気持ちが通じてから、初めてちゃんと交わるのだ、と思ったらアーセールも胸が熱くなる。
ゆっくりと腰を進めながら、ルーウェの手に指を絡める。
「……あ、嬉し……」
嬉しい、とルーウェは言った。アーセールも「俺もです」と囁く。そこから先、互いに、夢中になって貪り合ったが、それは、とても優しい時間でもあった。
翌日、戴冠式で、ルーウェは新皇帝に玉璽を授けるという大役を担っていた。
新皇帝の衣装は、豪華絢爛で美麗な装いであった。白を基調に、黒と紫の天鵞絨で彩られ、長い外套には、貴重な小動物の毛皮が使われ、そして、赤子の拳ほどの大きさの緑柱石が付いた頸飾に彩られた姿である。
そして、ルーウェもまた、玉璽を授けるというので、華麗な薄紫色の装束だった。こちらは、裾と外套が長く、大人の身長ほどあるので、擦って歩くのだが、おかげで重い。
(……腰が辛そうだな……)
アーセールは、ルーウェの様子を見守りつつ、そんなことを思う。結局、明け方近くまで抱き合って過ごしたため、ルーウェの身体には、相当な負荷を掛けたはずだった。
けれど、思いが通じて交わるのは、本当に幸せな時間で、時間が許すのであれば、三日三晩、ずっと戯れて暮らしたいと思うほどだ。
(この式典が終わったら……)
しばらくの間、休暇を貰うことにしよう。そして、甘い時間を過ごすのだ。
新皇帝の誕生を祝いつつ、アーセールは、最愛の伴侶と幸せな時間を過ごすことだけを、夢に見ていた。
了
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