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第26話 魔王様と勇者様、嵐の夜に

 ジェイミーとルナトゥスの部屋の中は、窓も開いていないのに嵐が吹き込んでいるかのように暗雲が立ち込め、さまざまな物が散乱し、壊れて散らばっている。 「なにが起こってるんだ……ルナは?」  ベッドを見ると、真ん中に毛布が小さな山を作って、振動している。  駆け寄ったジェイミーは勢いをつけて毛布をめくった。 「……ルナ! あっつ……!」  ルナトゥスがうずくまり、耳を塞いで震えているが、体は発熱し、触れるとジェイミーの手のひらが赤くなるほどだった。 「ルナ! ルナトゥス!!」  ジェイミーが名を呼ぶが、ルナトゥスは昏迷状態にあり返事もせずに唸るばかりだ。 「あなたが帰ってこないことに最初は癇癪を起こしていて……なだめている間にお天気が悪くなって雷が落ちた音がしたの。そうしたら火がついたように喚き出して目が赤く光って……同時に嵐が舞い込んだみたいに部屋が荒れ始めたのよ。どこも開いてないのに……それからこうして熱が出るわ、なにを言ってもやっても届かないわで……」  見るとハンナの手のひらも腕も赤くなっていた。額の打ち傷もそうだが、ルナトゥスを抑えようとして受けたものだろう。 「……ジェイミー、危ないっ!」    宙を散乱する辞書がジェイミーめがけて飛んでくるのをハンナが体で庇い、肩にぶつける。 「いたっ……っ」 「姉さん!」 「大丈夫、大丈夫よ……それよりどうしたらいいの……」 (どうしたら? 原因は確実にルナトゥスだ)  一刻も早く早くルナトゥスを落ち着かせなければならない。 「ルナ、落ち着け。俺がわかるか!?」  ジェイミーはベッドの上のルナトゥスを抱きかかえた。  熱い。ルナトゥスに触れたところが火傷しそうに熱かった。それでも。 「大丈夫だ。ルナ、俺がいるから雷は怖くない」  腕に力を込め、ルナトゥスを包み込む。 「大丈夫だ。ルナ、俺がいる!」  俺がいるから、と幾度もくり返し、頬を濡らすルナトゥスの涙を指で拭った。 「ジェイ……ジェイミー……?」  赤く発光する瞳はガラス玉のように虚ろだが、ルナトゥスの唇からジェイミーの名がこぼれ、小さな手がジェイミーの背に回る。 「そう、俺だよ。遅くなってごめん。もう帰ってきたから。そばにいるから。大丈夫だから」    頬ずりし、赤くひりつく手のひらでルナトゥスの背を撫でる。次第にルナトゥスの息が落ち着くのを感じた。 「ジェイミー、ジェイミー、どこにも行かないで」 「大丈夫、いるよ。ずっといるから。ルナは俺が守るから」 「ジェイミー……」  ジェイミーの名を呟きながら意識を失くしたルナトゥスは、同時にジェイミーの胸の中でぐったりと体の力を失くした。間を置かずに部屋の中の嵐は止み、縦横無尽に宙を待っていた物達はゆっくりと床に落ちる。  静けさが、戻った。 (終わった……?)  あたりを見回す。外では雷がまだ鳴っていることに今初めて気づいた。けれど部屋の中は静寂そのもだ。  ジェイミーもハンナも安堵のため息をつく。 「眠ったの……?」 「そうみたいだ。でも、まだ熱はあるみたい」  ルナトゥスをベッドに横たえて額に触れる。高熱は続いているが、さっきまでのように他人の肌を焦がすような熱さはもうない。 「ジェイミー、火傷したんじゃない?」  はっ、と思い出して、ハンナがジェイミーの体を見る。 「大丈夫。ひりひりするけど、このくらいの火傷なら軽いよ。……姉さんこそ。火傷も、額の傷も……さっき、肩もぶつけたよね!?」 「これくらい大丈夫よ。冷やせばどこもすぐに良くなるわ」  ジェイミーが不在の間に恐ろしい思いをしただろうに、それも嫁入り前の体に傷がついたのに、ハンナは気丈に笑った。 「姉さん、ごめん……」    少し前にルナトゥスにもハンナにも幸せになってもらいたいと願ったばかりなのに、少しも役に立てていない。   「そんな顔しないの。ジェイミーが悪いんじゃないでしょう。それより手当てに行きましょう? ルナの熱を下げる処置もしなきゃ」  久しぶりにハンナに頭を撫でられ、ジェイミーは素直に頷いた。優しい手のひらに涙が溢れそうだった。 (ルナも、この暖かさを求めているんだな。暖かさがないと、不安で不安で仕方なくなるんだ)  ひと通りの手当てを受け、ルナトゥスのための氷枕やタオルを準備したジェイミーは部屋に戻る。今夜起こった出来事については明日話そうとハンナと相談した。  怯えたり不審に思ってもいいはずなのに、やはり気丈に振る舞うハンナに、乱れていた自分の気持ちも落ち着かせてもらえた気がして、ジェイミーは頭が下がる思いで「おやすみなさい。ありがとう」とハンナに伝えたのだった。 ***  その夜、ジェイミーは毛布で包んだルナトゥスを抱きしめて眠った。熱はあってもルナトゥスの寝息は穏やかで、一日の疲れが大きかったジェイミーも、誘われるように深い眠りの底についていた。  そして朝。嵐のあとの眩しい日差しがジェイミーの顔を照らして目が覚める。 (いつの間にか寝てたな……ルナトゥスは……) 「ーーーー!!」  ジェイミーは、声にならない声で叫んだ。

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