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第1話
木枯らしに交じって、雪が降ってきてるんじゃないかと思うほど寒い夜。
木実公親(このみ きみちか)はいつものように会社から家に帰ろうと駅からの道を歩いていた。時間としては遅いほうで、商店街の店はもうみんな閉まってしまっている。そこを通り抜けて住宅街に入る一歩手前、ゴミ置き場のゴミに寄りかかってひとりの男が寝込んでいた。
「……」
酔っ払いかな……。
思っていったん通り過ぎたけど気になって引き返して覗き込んでみる。近づいても男は寝こけたままピクリとも動かなかった。
「……あのっ。大丈夫ですか?」
「……」
声をかけてもピクリともしない。
このまま置いて行ったらきっと凍死する……。
ガシガシ肩を揺すって声をかけてみたけど、よく寝てるのか返答がない。
「どうしようかな……」
警察に連絡したほうがいいのかな……。
腕組みをしてから頭をカシカシと掻いて考える。
「寒いもんな……」
そして俺の家は近い……。
考えに考えたけど面倒事は避けたい。特に警察は面倒な気がした。だから木実は相手の後ろに回ると脇に手を入れてバックで家まで引きずって行こうとした。
その時。その時になってようやく相手がパチリと目を開けた。
「あっ!」
「ぁ、起きた」
「ぁっ!」
「大丈夫ですか?」
「はっ?」
「酔ってます……? こんなところで寝てちゃ風邪ひきますよ」
「こんな、ところ…………?」
「ええ。こんなところ」
言われて初めて自分のいる場所を確認するように男は辺りを見渡すと、とたんに身を翻して土下座した。
「ぇっ」
「お願いですっ。助けてくださいっ!」
「ぇ……?」
「あのっ、俺今金持ってなくて。腹減って倒れたって言うか……」
よくよく見てみると男の服装はちょっと薄汚れてるようにも見えた。
もしかしてゴミ捨て場でゴミを漁ってたとか?
そうなると相手はホームレスかもしれない。どうしようか……と考えていると、土下座していた男が顔をあげて潤んだ瞳で見つめられた。
「ぁ……」
その顔がとても綺麗で凛々しくて、とてもホームレスには見えなかった。
でも……。
「誰かが助けてくれるのを見越してそこで倒れてた、とか言うんじゃないでしょうね」
「いえ、そうじゃなくて!」
「じゃなくて?」
「たまたまって言うか……。目が覚めたらあなたに抱えられてました」
「……」
「お願いですっ。俺、今猛烈に腹減ってて……。今あなたに見捨てられたら……」
たぶん死ぬ。
そんなことまでは口にしなかったけど懇願する顔からそう言いたいのは見て取れた。だから木実は「どうしようか」と言う思いと共に「仕方ない」と言う思いから彼を連れて家に帰ることにしたのだった。
一話終わり。
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