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私のお兄ちゃん

<side七海> 「えーっ、やばっ! 今の七海のお兄ちゃん? 超かっこいいっ!」 「ねぇ、紹介して! 付き合いたい!!」 今まで生きてきて、何回このセリフを聞いたかもわからない。 イケメンなお父さんとかなり美人のお母さんの間に生まれたおかげか、私もそこそこ美人だけど、八歳上のお兄ちゃんは、私が物心ついた時にはどこに行ってもモテまくりの桁違いイケメンだった。 私が小学生の時ですでに、中学生〜大学生だったお兄ちゃんは、私の友達から見たらポーッと見惚れてしまう、王子さまのような存在だったのかもしれない。 「でも、あんなかっこいい人がお兄ちゃんだったら、目が肥えすぎて周りが子どもっぽく見えるよねー。本当、七海ってばかわいそう!」 なんて言葉をかけられたこともある。 確かに周りの子に興味を持ったことは一ミリもないけど、それはお兄ちゃんのせいだけじゃなくて、一途にお母さんを愛し続けるお父さんの存在もありそうだけど……。 それはともかく、お兄ちゃんは顔がいいだけじゃなく、頭も良い。 お兄ちゃんが入学したのは|儁秀《しゅんしゅう》高校。 偏差値は80以上ある名門校で、そこに首席で合格したのだから驚きしかない。 これで性格でも悪ければまだ文句も言えるんだろうけど、私が小さい頃のお兄ちゃんは常に優しくて、外に出た時はいつも私を守ってくれた。 そんなお兄ちゃんの彼女になるのは一体誰なんだろうなぁ……と常々思っていたけど、お兄ちゃんはあまり恋愛には興味がないらしい。 流石に高校生になったら、彼女はできるんだろうと思っていたけど、高校時代常につるんでいたのは悠木さんと観月さんという、これまたお兄ちゃんと甲乙つけ難いほどのイケメンな二人。 しかもお兄ちゃんと同じく満点で首席合格を果たしたというのだから類は友を呼ぶというのは本当のことなのかもしれない。 結局お兄ちゃんが大学に入るまで、誰か彼女を家に連れてきたことは一度もなかった。 大学に入学してすぐに、お父さんの持っていたマンションの一室を譲り受け一人暮らしを始めた。 学生の間は、医学部の勉強もしながら家事もしていたみたいだけど、卒業後に自分で起業して忙しくなってからは家事をする暇もなくなって、結構大変だったみたい。 それでもお母さんに部屋に来て片付けてもらうのは嫌だったみたいで――というか、お父さんが許さなさそうだけど――あまりにも忙しかった時に、家事代行サービスを頼んだことがあるらしい。 そんなサービスがあるんだとその時初めて知ったけれど、話を聞いて驚いた。 お兄ちゃんが家事代行の仕事を頼んで家に帰ると、そのスタッフはとっくに仕事が終わった時間にも関わらず、まだ家にいたらしい。 そして、あろうことか交際を申し込んできたんだって。 聞けば、高校時代からお兄ちゃんのことを好きだったらしく、自分の勤めていた家事代行サービスにお兄ちゃんが仕事を頼んできたのを知って運命だと感じたみたい。 お兄ちゃんは速攻で家から追い出し、気になって部屋中を探し回ると、部屋の中から10個を超える盗聴器や盗撮用のカメラが見つかったんだって。 もう、ほんと無理。気持ち悪い。 そのカメラを調べると、カメラを仕掛けている時の映像が残っていたことが決め手になり、その女はすぐに捕まったらしい。 後で調べるとお兄ちゃんの金庫も開けようとしていた形跡があったらしく、窃盗未遂の件も追加されたみたい。 運命とか言いながら結局金目当てかと思ったら、ため息しか出ない。 それからすぐにお兄ちゃんはそのマンションを出て、もっとセキュリティーの高いマンションを自分で購入して、そこに住み始めた。 相変わらず仕事が忙しいみたいだったけれど、なんとか自分でこなせるようになってきたみたいで、私もお母さんもホッとしていた。 私立の中高一貫の女子校に通っていた私は、そのまま系列の女子大に通うつもりでいたけれど、お兄ちゃんみたいに共学の桜城大学に通うのも楽しそう! とふと思い立ち、一念発起して、ひたすら勉強をしまくって、なんとか桜城大学に合格した。 もちろん、お兄ちゃんみたいに首席とかではないけれど、合格は合格だからね。 大学に入って、しばらくして同じ講義をとる人の中に気になる存在ができた。 最初はずっと女子校で、男性と一緒に勉強することに緊張しているのかと思ったけれど、彼のそばにいるときだけものすごくドキドキすることに気づいた。 でもなんと言っていいのかわからなくて、一年生の間はただのクラスメイトというか友人だったと思う。 でも二年生の夏休みに、与えられた課題をどうしようかと悩んでいた時に、彼の方から声をかけてきてくれた。 ――三人一組だから一緒にやらない? そう言われて、嬉しくて即決した。 その彼が今の私の彼氏、翔太。 そして、一緒に課題をやってくれたのが佳都くんだった。 その課題をきっかけに私たちはよく三人で行動するようになって、翔太から告白された。 相変わらず学校では三人で過ごすことが多かったり、私も女子の友達と過ごすことも多かったけど、充実した日々を過ごしていた。 四年生になってしばらくした頃、もうほとんど単位を取り終わっていた私たちは卒論以外はほとんど学校に行くこともなかったけれど、たまたま佳都くんと一緒になって、大学の正門まで一緒に帰った日の夜、珍しくお兄ちゃんから連絡が来て、明日美味しいスイーツをご馳走するからイリゼホテル銀座のロビーに来て欲しいと言われた。 お兄ちゃんがわざわざ私をホテルに呼んでご馳走してくれるなんて……絶対に何かある。 そう思いながらも、当日ホテルに向かうと、本当に限定もののスイーツを用意してくれていた。 「何か、私に頼みでもあるの?」 「――っ、どうしてわかった?」 「わかるよー! だって、そうでもないとこんなことしないでしょう?」 いつも計算し尽くして行動しているお兄ちゃんにしては珍しい。 それが逆に人間らしく見えた。 「実は……どうしても手に入れたい人がいる。協力して欲しい」 そう言って、お兄ちゃんが見せてきたスマホに写っていたのは、 「えっ……」 佳都くんだった。 「手に入れたいって、どういう意味?」 「もちろん、恋人としてってことだよ」 「お兄ちゃんって……ゲイ、だったの?」 「いや、違うと思う。でも、彼は特別なんだって一目見て気づいたんだ。性別とか関係なく、彼だけが好きなんだ。接点さえ作ってくれたら自分でなんとかする。決して彼に無理強いはしないと約束する。だから、協力してくれないか? 頼む」 初めて見るお兄ちゃんの姿に、私は頷くしかなかった。 そこから二人で作戦会議。 佳都くんの性格を考えるとまともな理由じゃないと話には乗ってくれないのがわかっていたから、料理も掃除も得意な佳都くんにお兄ちゃんの家の家事代行のバイトを頼むということにした。 あの女の事件があったから、いい理由になったし。 この点では良かったのかもしれない。この点だけだけど。 「私はバイトの声をかけるだけだからね。あとはお兄ちゃん次第」 「わかったよ。七海、ありがとう」 そう言って笑ったお兄ちゃんの笑顔は、初めてだと思えるくらい希望に満ち溢れていた。   *   *   * 最後まで読んでいただきありがとうございます!

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