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第28話

 野営の準備を終え、用意された天幕に入った男は懐から一通の手紙を取り出す。すでに開封されているそれに、男はもう何度目かになる視線を落とした。 『貴公の願い、王として叶えるにやぶさかではない。無事の帰還を心待ちにしている』  短く書かれたその文は、何度読み返しても変わりない。偉大なる君主である王が叶えると言った以上、それは確実に起こる未来だ。 (ようやく……)  ようやくこの時が来た。どれほど、この時を待ち望んだことだろう。  今すぐにでも馬に跨り、夜通し駆けて王都に戻りたいと逸る気持ちをなんとか押さえつけ、男は大切に手紙を懐に仕舞うと口元に笑みを浮かべた。  戦を仕掛けてきた小国の鎮圧のため出陣していた第一連隊が帰ってくる。その朗報に城は勿論、国民も沸き立ち、基本的に噂などは興味がなく聞こうともしないアシェルの耳にも届くほどだった。  バーチェラは大国と呼ばれるほど広大な国土と屈強な兵を抱えているが、最大最強の大国と呼び名の高いオルシアほどではなく、かの国のように相手の方が戦を避けてとおるということもないため、周辺の諸国には睨みを効かせ、必要とあらば兵が出陣することもある。

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