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第30話
第一連隊が無事に帰還することは、いち国民として嬉しい限りだが、それだけだ。彼らが帰還しようと、式典が催されようと、そこに出席するわけでもないアシェルにはなんら関りが無く、仕事もあと数日で退職するため机の上を片付けるだけで、新しい仕事が回されることも無い。王妃として兵士たちを労わなければならないフィアナや、侯爵家の嫡子として式典に出席せねばならないウィリアム夫妻は忙しい事この上ないだろうが、三男であるアシェルはいつになくのんびりと後片付けをしていた。あとはこの紙束をサイラスに渡してしまえば、もうこの職場にすらアシェルがやらなければならないことは無くなる。最終日には流石に顔を出してサイラスや国王に挨拶をしなければならないだろうが、それまでは休みということにしてもらって、本邸にいれば良いだろう。幸いなことにこの凱旋でウィリアムもメリッサも忙しくしているから、元々式典に出席する資格を持たないアシェルに構っている暇はないはず。ならばその間に荷物を纏めて、既に購入している田舎の屋敷に送ってしまえば、あとは式典がある日にでもアシェルが引っ越すだけで良い。
田舎でアシェルの世話を最低限してくれる使用人の選定はじぃが選ぶと言ってきかなかったため、仕事を早々に終えたアシェルはやることも無く手持無沙汰なまま父の部屋に向かっていた。
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