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第39話

 挨拶をするからと常よりは格式ばった格好をしてきたが、それでも舞踏会や式典に来ていくような儀礼服ではないため侍従の手によってすぐにはだけられる。流石に冷静さを保っていられず「待てッ」「なにを――ッ」とアシェルは叫び身じろぐが、彼らは王妃の命に従って動きを止めない。  一人の侍従が最初からあまり無い飾りを手早く外し、上着のボタンを外せば、別の侍従がアシェルの腰を抱えてほんの僅かに持ち上げ、スルリとズボンを引き抜く。流石に下着をはぎとられるようなことは無かったが、城の使用人とはいえ見知らぬ大勢の前、それも後ろでは髪を梳かしたり香油を用意したりと動き回る侍女がいる中で裸も同然な姿にされ、アシェルは羞恥のあまり声もなく顔を真っ赤にするしかない。人間、訳の分からないことが突然起これば暴れるでも叫ぶでもなく無力にも固まってしまうのだと、アシェルは不本意ながら思い知った。 「失礼いたします」  周りがきちんと服を着るなか、独り下着だけの姿になって震えるアシェルを侍従は危なげなく抱き上げて簡易的な寝台に横たえた。どう見てもこの部屋に元からあったわけではない寝台に、どこまで用意周到に準備されていたのかと恐ろしくなるが、アシェルはそんなことを考えている暇など与えられない。

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