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第50話

「アシェル、こちらに来なさい」  予想外のところで己の名前が出たことにアシェルはポカンと口を開き固まったままであるが、無情な侍従はそんなアシェルのことなどお構いなしに、主たる国王の命に忠実に、アシェルの車椅子を押して玉座の前、ルイのすぐ隣まで移動した。 「さて、アシェル。ロランヴィエル公は君を望んでいるが、ノーウォルトはウィリアムが継いでいるし、君がロランヴィエルに婿入りという形で良いかな?」  褒美として成立した婚姻の場合は王も祝福するのが通例であるし、ルイは親戚でアシェルは王妃の実兄なのだから私達が結婚式に参加してもなんら問題はないか、などと何とも呑気でホワホワとした話をされて、固まっていたアシェルはようやく焦りを覚え、ブンブンと首を横に振った。 「ん? アシェルは私が式に参加するのは反対かい? しかし、君は私の義理の兄で、フィアナにとっては実兄だ。王と王妃としてではなく、親族としてだね――」 「ぼ、僕は結婚なんかしませんッ!」  あまりの混乱に自分のことを〝私〟ではなく〝僕〟と言ってしまったことにも気づかず、アシェルは不敬と知りつつも王の言葉を遮った。そんなアシェルの姿に、クスリとフィアナが扇で口元を隠しながら笑う。

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